ちょうどいいので結婚します
週明け。
経理部は相変わらず静かだった。千幸が意識し過ぎで功至の方を向けなくなっていたことも、功至が千幸の自分に対して全くもって以前と変わらない態度を残念に思っていることも、外から見ればその静けさは通常であるので、誰も気には止めていない様子だった。
静かゆえに、誰かが口を開けば、その会話は全員の耳に入ることになる。
「お疲れ様です」
そう言って入ってきたのは多華子だった。
「お疲れ様です。一柳さーん、彼女さんいらっしゃいましたよ」
妹尾が功至をそう呼んだ。功至と千幸が話している時だった。当然仕事の話だった。功至はサッと血の気が引くのを感じた。
「ちょっと、妹尾さん。その呼び方は違うでしょ。それに、一柳くんじゃなくて良いわよ。これの書き方聞きたかっただけで……」
それは多華子も同じだったのだろう。多華子は焦ったように妹尾を戒めたが、妹尾をお構いなしといった様子だった。妹尾だけでなく他の人からも多華子のことをそう呼ばれることは初めてではなかった。
功至と多華子の仲が良いことは周知の事実であったし、否定することではない。だから、付き合っているんじゃないかと噂されることはあったが、今のように『彼女』などと呼ぶのは冗談の類のものである。
功至は慌てて二人の元へ駆け寄った。
「どれ?」
「これ、ここが私の署名? で、こっちには?」
「そこも、石川の名前」
「そう。ありがと。あ、ここで書いていい?」
多華子はさっと書いた書類を功至に渡すと功至に微妙な視線を寄越して去って行った。注意しろ、という事だろう。
経理部は相変わらず静かだった。千幸が意識し過ぎで功至の方を向けなくなっていたことも、功至が千幸の自分に対して全くもって以前と変わらない態度を残念に思っていることも、外から見ればその静けさは通常であるので、誰も気には止めていない様子だった。
静かゆえに、誰かが口を開けば、その会話は全員の耳に入ることになる。
「お疲れ様です」
そう言って入ってきたのは多華子だった。
「お疲れ様です。一柳さーん、彼女さんいらっしゃいましたよ」
妹尾が功至をそう呼んだ。功至と千幸が話している時だった。当然仕事の話だった。功至はサッと血の気が引くのを感じた。
「ちょっと、妹尾さん。その呼び方は違うでしょ。それに、一柳くんじゃなくて良いわよ。これの書き方聞きたかっただけで……」
それは多華子も同じだったのだろう。多華子は焦ったように妹尾を戒めたが、妹尾をお構いなしといった様子だった。妹尾だけでなく他の人からも多華子のことをそう呼ばれることは初めてではなかった。
功至と多華子の仲が良いことは周知の事実であったし、否定することではない。だから、付き合っているんじゃないかと噂されることはあったが、今のように『彼女』などと呼ぶのは冗談の類のものである。
功至は慌てて二人の元へ駆け寄った。
「どれ?」
「これ、ここが私の署名? で、こっちには?」
「そこも、石川の名前」
「そう。ありがと。あ、ここで書いていい?」
多華子はさっと書いた書類を功至に渡すと功至に微妙な視線を寄越して去って行った。注意しろ、という事だろう。