ちょうどいいので結婚します
 千幸は多華子はが功至の『彼女』だと呼ばれるのを聞いていた。時々そう呼ばれることは知っていたし、自分自身も、以前は多華子は功至の恋人だと思っていた。

 だが、それは誤解であると功至から説明を受けた。だから、妹尾がそう言ったのは誤解しているのか、または軽口のようなものだと理解していた。功至と多華子の並ぶ姿はよく目にしていたし、妹尾が『彼女』と軽口で言いたくなるのもわかるくらい二人はお似合いに見えた。些細な会話がとても自然だった。
 
 この日に限って功至はそう呼んだ妹尾を咎めていた。

「妹尾さん、石川さんのこと、そう呼ぶのやめてくれない?」
「だって、お似合いなんですもん」
「あのねぇ、そんなんじゃ《《絶対》》ないし、万が一誰かが真に受けて誤解があったら俺も向こうも困る。だいたい、職場でそういう呼び方はしないものだよ」
「はい、すみません」
 妹尾の形ばかりの謝罪に功至は苦笑いを浮かべた。
「とにかく、今度から気を付けて」

 功至が席に着くと妹尾が小さな声で
「どうしたんですかね、一柳さん。今更あんなことで怒るなんて。案外本当のことになってたりして」
 と、溢した。
「ふふ、そっとしときましょう」
 と、柏木は笑った。
「ですね。お似合いだし。ね、小宮山さんもそう思いません?」
 千幸の他の人たちともコミュニケーションを取ろうとした努力が実り、こんなちょっとした雑談にも混ぜてくれるようになったのは嬉しく思っていた。ただ、今回はその限りではなく、かといってお似合いに見えるのは事実であった。千幸にはどう答えるのか正解かわからなかった。すぐに答えないのもおかしいかと
「確かに、お似合いですね」
 二人に笑顔をつくって同意した。
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