ちょうどいいので結婚します
 功至は妹尾に注意しながら時々千幸の方へ視線を走らせたが、千幸の表情は何も変わらなかった。どころか、妹尾の『お似合い』というところに頷いていたようにも見えた。それに、よく聞こえなかったが、自分がいない所で『お似合い』だと言っていた。

 言った?俺のことだよな?
 功至は信じられない思いで眉間に皺を寄せた。きっと周りに話を合わせただけだろうと何とか気持ちを落ち着かせた。

 功至は昼食を終え、昼休憩の残り時間は席でコーヒーを飲んでいた。スケジュールアプリを見ながら千幸の事を考え、気分良く過ごしていた。

 女性たちがコーヒー片手に帰って来たが、功至の席はスマホをのぞかれる心配がないので顔だけを引き締めた。どうやら千幸はまだ戻ってきていないようだった。皆と一緒に食事に行ったのではなかったのなら自分が食事に誘えばよかったか、などど思っていた。

「小宮山さんの婚約者、すっごいかっこいいね。こんなうらやましい事ある?」
 妹尾が力説し、他の人が強く同意した。功至は自分の事を言われたと思い驚いて視線を向けたが、誰も功至の方を向いてはいなかった。
「ほんとほんと! しかも弁護士!」
「そりゃそうでしょ、親が決めたんだもの。でもあの人なら小宮山さんが受け入れたのも納得! 」
「私、前から二人でいるの何度か見かけてたよ。親が認める恋愛結婚なのかもね」

 功至は皆が、自分ではなく誰の話をしているか悟ってしまった。
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