ちょうどいいので結婚します
「うん、お似合い。ああ、うらやましい。うらやまし過ぎて昼から仕事手につかない」
「元々でしょ」
「あはは、眠くなるね、事務職はさ」

 半分は面白可笑しく話しているだけだろう。功至は良一と千幸の関係が誤解であるのを知っていた。婚約者は自分なのだから。だが、気分は良くなかった。千幸は昼にあの男と食事に行ったのかと思うとますます気分が悪くなった。なるべく会話が聞こえないように努力をしたが、気にしない努力をしようにもフロアはその声しか聞こえてこないほど静かだった。

「そうだ、一柳さーん、さっき、小宮山さんの婚約者さんに会ったんですよ」
 ご丁寧に会話に巻き込まれ、功至は無視するわけにもいかず適当な相槌でやり過ごした。
「見たことありますよね。以前一柳さんと一緒の時に出会ったあの長身の男性……」
「あー、覚えてないなぁ」
 例え第三者からでも良一から見受けるイメージを聞きたくなくて早めに遮った。
「ええ、もっと小宮山さんに興味持って下さいよ」

 功至は千幸に興味しか無かった。だからこそこんなに腹立たしいのだ。

「そうそう。すっごいお似合いでしたよ。一柳さんもそう思いません?」
「全く思わないね」

 つい、苛立ちから大きな声を出してしまって、静まり返ってしまった。

「どうか、しましたか?」

 その声に驚いた千幸がそこに立っていた。

「いや、別に。お帰り」
 功至は無理やり作った笑顔を千幸に向けた。

「一柳さん、今日機嫌悪いですよ」
 妹尾が千幸にそう耳打ちするのが聞こえた。
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