ちょうどいいので結婚します
 ――数分前

 ここ最近、部署の人たちは当たり前のように千幸も昼食に誘ってくれるようになっていた。千幸にとってかなりの進歩であり、楽しい時間だった。次第にパニックにならずに話せるようになってきたし、話した後で後悔に襲われることも反省することも少なくなってきた。

 帰り道、最後尾を歩いているとバッタリと良一に出会った。
「ちー」
 良一が軽く手を上げた。

「良ちゃん」
 部署の人たちが一緒に立ち止まってくれたのを申し訳なく思い、千幸は「あ、先に帰っていて下さい」と促した。みんなはチラチラと視線を寄越した後、ぺこりと一礼して戻って行った。

 皆が離れてから、千幸は良一を確認し、いつもよりちゃんとしている事に気がついた。
「あれ、良ちゃん今日はちゃんとしてるね」
 スーツのジャケットをビシッと着こなして、普段はつけてない弁護士バッジまで着いていた。
「失礼だなぁ。いつもちゃんとしてるし。この前まで暑かったから自主的クールビズだっただけ」

 千幸が訝しげに目を細めると

「あはは。まあ、今日は写真撮影があったからちゃんとしてるんだ、実は」
 と、良一は白状した。

「そっか。やっぱりスーツは格好いいね。賢そう」
「……いや、賢そうはないだろう。七五三じゃあるまいし。あ、でもちーの好みはスーツか、なるほど。彼、似合ってんもんね」

 そうからかわれて千幸の頬は赤らんだが、良一相手だと何ともない。こう言い返すだけだ。

「そうなの。ほんっと、毎日格好いいの。スーツじゃなくても格好いいけど、スーツ姿は格別」
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