ちょうどいいので結婚します
「はは。何よりです。あ! どうだったんだよ。俺の選んだシャツワンピース!」
「……特に何も言われなかった」
「はあ、何だと? あれ見て何も言わないなんてぼーっとした男だな」
 千幸はあの日のことを思い出しながら
「功至さん、ぼーっとはしてなかった。でも、特に私を見ては無かったかも。……興味ないのかな」

 千幸は功至が服に興味がないという意味で言ったのだが、良一は功至が千幸に興味がないと受け取ったらしく、慌てて千幸を慰めた。

「そんなわけないだろ。自分の婚約者に興味のないやつがいるわけない。可愛いと思ってもあえて言わない男もいるしな。言わずに噛みしめてるに違いないぞ」

 千幸はそんなつもりで言ったのではないが、自分の服装のセンスを一切疑わずに千幸を慰めてくれる良一に、おかしくなった。

「あはは。良ちゃんは噛みしめずに相手に可愛いって言うタイプなんだ?」
「そう。見た瞬間に言う。判定に一秒もかからないね」
 千幸が自慢げに言う良一に笑うと、良一も笑顔の千幸にホッとしたように笑った。

「ちー、例えば、ちーから“この服どうですか?”なんて可愛く聞いてもいいんだぞ?」
「え、そんなの無理。功至さん困っちゃうよ」
「いいじゃん。困らせれば。男は結構困りたいもんだ。な? あ、他の男が選んだとかは言うなよ」

 良一は言いたいことだけ言うと「じゃ」と言って手を上げた。千幸は「もう!」とは言ったが、気には留めておいた。
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