破滅エンド回避のため聖女を目指してみたら魔王様が溺甘パパになりました
 そうだ。魔王だから怖いなんて、勝手な決めつけはやめよう。ジェネシスは今まで人間に危害を加えたことはないし、孤児院の子供をかわいそうと思って、親切心で私を引き取ってくれた可能性だってある。もしそうなら、とても優しい人じゃない。
 それに――家族の存在を知らずに生きてきた私は、たとえ相手が魔王であっても、〝お父様〟ができたことに少なからず喜びを感じていた。
 私にも家族ができたんだ。血の繋がりはなくたって……私の親になろうと思ってくれる人が、現れてくれたんだ。
「……おとう、さま」
 自然と、私の口からそんな言葉が零れた。
 ピクリとジェネシスの眉が動くのが見えた。どんな反応を返してくれるのかと、勝手に期待していると――。
「気色悪いことを言うな。形上そうなるだけで、お前を娘と思うことなどない」
「……え」
 ジェネシスは私の期待を粉々に打ち砕くように、冷たく言い放った。あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。今の私は、とてもまぬけな顔をしているに違いない。そんな私に向かって、ジェネシスは続けて言う。 
「アイラ、といったな。お前は我がジェネシス・アルバーンの駒にすぎない。恨むなら自分の不幸な運命を恨むんだな」
「……私が、お父様の駒?」
五歳の私には理解するのがむずかしい言葉なのに、なぜかしっくり入ってくる。こんなことは、今に限ったことじゃない。私はなぜか、幼いのにたくさんのむずかしい言葉を知っていた。先生にも、ほかの大人たちにも、何度も驚かれたことがある。
――どうして、私は教えてもらってないはずの言葉を知っていたの? それに……なんだかずいぶん昔から、私はこの世界のことを知っていた気がする。アイラ、ジェネシス、リーベルツ王国……これって。
急に私の頭に、強烈な痛みが走った。両手で頭を抱えながら、私はその場に膝をついた。
心配するそぶりもなく、ジェネシスはただ私を見下ろすだけ。ぼんやりとした意識と視界でジェネシスを見上げると、血のような真っ赤な瞳と目が合った。……その瞬間、頭の中に膨大な量の記憶が流れ込んでくる。……とっても見覚えのある景色、人物。これは、私の前世の記憶だ。
そうだ。前世の私は、日本で暮らすしがないOLだった。
二十五歳の誕生日に、生まれて初めてできた三次元の彼氏にこっぴどくフラれやけ酒をし、その帰り道以降の記憶がない。……泥酔して事故にでも遭って、そのまま死んでしまったのだろうか。だとしたら、どうしようもなく情けない死に方だ。
そして今いるこの世界は、私が前世でプレイした乙女ゲーム「A Maiden's Prayer」。通称〝めいぷれ〟。
ゲームの世界にいるっていうことは――私、めいぷれの世界に転生しちゃったの!? それに……私がアイラってことは……。
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