破滅エンド回避のため聖女を目指してみたら魔王様が溺甘パパになりました
「っ!」
ゲームの展開を思い出し、私は重大なことに気づいてしまった。
アイラは主人公をいじめる、いわゆる〝悪役王女〟ポジションのキャラクターで、ゲーム上ではどのルートでも死んでしまう、めいぷれイチ、不遇なキャラなのだ。
そして、その義理の父親である魔王、ジェネシスといえば、このゲームのラスボスとしてヒロインに立ちはだかる最強で最恐の悪役……!
――最悪だ! よりによって〝悪役側〟に転生するなんて!
頭痛はとっくに治まっているのに、今度は別の理由で私は頭を抱えた。
「……いつまでそうしている」
「あっ! す、すみません」
あきらかに機嫌の悪そうな声で言うジェネシス。私は急いで立ち上がり、姿勢を正した。
……さすがはラスボスの魔王。五歳の幼女が相手とて、優しさの欠片もない。
「アイラ。明日からお前は、この国で最強の魔法使いになるよう訓練してもらう」
「訓練?」
悪役王女、アイラの幼少期はゲームでは描かれていない。訓練をするなど初耳だ。
「そうだ。そして十五歳になったらリーベルツ魔法学園へ入学し、光の加護を授かり聖女になれ。そうすればお前を自由にしてやる。古城から去り、好きなところへ行けばいい。だが……その前に逃げたり歯向かったりしたら、子供だからといって容赦はしない」
ジェネシスが言い終わると、部屋の隅にある花瓶に生けてあった花が突然凍てつき、パリンと音を立てて粉々に砕け散った。歯向かうと自分もああなるかと思うと、ぞっとして背筋が凍りついた。
――魔法を極め学園に入り、光の加護をもらう……。これは、〝めいぷれ〟のゲームの内容と一致するわ。
「フン。ガキのお前はまだ俺の言っていることを理解していないようだな。あとでグレンから、理解できるまで何度も説明してもらえ」
考え込む私を見て、ジェネシスは話をわかっていないと勘違いしたようだ。
「俺からお前への話はそれ以外にないし、お前の話を聞く気もない。さっさと出ていけ。明日からの過酷な日々に備え、今日は早く寝ることだな」
ジェネシスがこちらに手をかざした瞬間、暴風が吹きつけ、私の小さな体は扉の外へと吹き飛ばされた。
「お嬢様っ!」
あまりの風の勢いに、身体が床にたたきつけられそうになる――と、間一髪、グレンが私の身体を支えてくれてなんとか助かった。
「大丈夫ですか? まったく、ジェネシス様は……」
あきれたようにため息を吐くグレン。その顔をまじまじと見つめながら、私はあることを思い出した。
「ああ! グレンって、グレンだったのね!」
「はい?」
そうだ! この銀髪に敬語口調。極めつけに萌え要素高まる耳と尻尾!
グレンは〝めいぷれ〟の攻略対象キャラのひとりだ。あまり詳しくは思い出せないけれど、敵側でありながらヒロインと恋に落ち、魔王を裏切りヒロインと結ばれるシナリオはファンの中でも『泣ける』と絶賛されていたっけ。
「私はグレンで間違いありませんが……お嬢様、やはりどこかお身体の具合が悪いのでは?」
いきなり変なことを言い出した私を見て、グレンは心配そうな顔を浮かべた。
「え……いや、そうなのかも! バタバタして、ちょっと疲れちゃった」
〝あなたが前世でプレイした乙女ゲームのキャラだってことを思い出して、びっくりしただけだよ〟なんて馬鹿げたことを言うわけにもいかず、私は誤魔化すようにグレンと話を合わせた。
「そうですよね。突然孤児院から連れ出され、魔王の子供として暮らせだなんて……心も身体も理解が追いつかなくて当然です。わからないことは私が丁寧に教えてあげますから、とりあえず、いったん部屋でゆっくり休んでください」
グレンはそのままひょいっと私をお姫様抱っこして、私の部屋まで運んでくれた。ベッドに寝かされ、グレンは部屋から出て行く。
「あ、待ってグレン!」
「なにか?」
私は前世で、もし本物のグレンがいたならしてみたいことがあったのだ。
「……尻尾と耳、触ってもいい?」
「……ふっ。はい。どうぞお気の済むまで」
グレンは笑いながら、私の要望を受け入れてくれた。
グレンとのもふもふタイムを終えて、部屋にひとりになると、椅子に座って机の上にメモとペンを用意した。そうしてひとりになった部屋の中で、自分の置かれた状況をメモに書きだしながら、改めて確認することにした。
ゲームの展開を思い出し、私は重大なことに気づいてしまった。
アイラは主人公をいじめる、いわゆる〝悪役王女〟ポジションのキャラクターで、ゲーム上ではどのルートでも死んでしまう、めいぷれイチ、不遇なキャラなのだ。
そして、その義理の父親である魔王、ジェネシスといえば、このゲームのラスボスとしてヒロインに立ちはだかる最強で最恐の悪役……!
――最悪だ! よりによって〝悪役側〟に転生するなんて!
頭痛はとっくに治まっているのに、今度は別の理由で私は頭を抱えた。
「……いつまでそうしている」
「あっ! す、すみません」
あきらかに機嫌の悪そうな声で言うジェネシス。私は急いで立ち上がり、姿勢を正した。
……さすがはラスボスの魔王。五歳の幼女が相手とて、優しさの欠片もない。
「アイラ。明日からお前は、この国で最強の魔法使いになるよう訓練してもらう」
「訓練?」
悪役王女、アイラの幼少期はゲームでは描かれていない。訓練をするなど初耳だ。
「そうだ。そして十五歳になったらリーベルツ魔法学園へ入学し、光の加護を授かり聖女になれ。そうすればお前を自由にしてやる。古城から去り、好きなところへ行けばいい。だが……その前に逃げたり歯向かったりしたら、子供だからといって容赦はしない」
ジェネシスが言い終わると、部屋の隅にある花瓶に生けてあった花が突然凍てつき、パリンと音を立てて粉々に砕け散った。歯向かうと自分もああなるかと思うと、ぞっとして背筋が凍りついた。
――魔法を極め学園に入り、光の加護をもらう……。これは、〝めいぷれ〟のゲームの内容と一致するわ。
「フン。ガキのお前はまだ俺の言っていることを理解していないようだな。あとでグレンから、理解できるまで何度も説明してもらえ」
考え込む私を見て、ジェネシスは話をわかっていないと勘違いしたようだ。
「俺からお前への話はそれ以外にないし、お前の話を聞く気もない。さっさと出ていけ。明日からの過酷な日々に備え、今日は早く寝ることだな」
ジェネシスがこちらに手をかざした瞬間、暴風が吹きつけ、私の小さな体は扉の外へと吹き飛ばされた。
「お嬢様っ!」
あまりの風の勢いに、身体が床にたたきつけられそうになる――と、間一髪、グレンが私の身体を支えてくれてなんとか助かった。
「大丈夫ですか? まったく、ジェネシス様は……」
あきれたようにため息を吐くグレン。その顔をまじまじと見つめながら、私はあることを思い出した。
「ああ! グレンって、グレンだったのね!」
「はい?」
そうだ! この銀髪に敬語口調。極めつけに萌え要素高まる耳と尻尾!
グレンは〝めいぷれ〟の攻略対象キャラのひとりだ。あまり詳しくは思い出せないけれど、敵側でありながらヒロインと恋に落ち、魔王を裏切りヒロインと結ばれるシナリオはファンの中でも『泣ける』と絶賛されていたっけ。
「私はグレンで間違いありませんが……お嬢様、やはりどこかお身体の具合が悪いのでは?」
いきなり変なことを言い出した私を見て、グレンは心配そうな顔を浮かべた。
「え……いや、そうなのかも! バタバタして、ちょっと疲れちゃった」
〝あなたが前世でプレイした乙女ゲームのキャラだってことを思い出して、びっくりしただけだよ〟なんて馬鹿げたことを言うわけにもいかず、私は誤魔化すようにグレンと話を合わせた。
「そうですよね。突然孤児院から連れ出され、魔王の子供として暮らせだなんて……心も身体も理解が追いつかなくて当然です。わからないことは私が丁寧に教えてあげますから、とりあえず、いったん部屋でゆっくり休んでください」
グレンはそのままひょいっと私をお姫様抱っこして、私の部屋まで運んでくれた。ベッドに寝かされ、グレンは部屋から出て行く。
「あ、待ってグレン!」
「なにか?」
私は前世で、もし本物のグレンがいたならしてみたいことがあったのだ。
「……尻尾と耳、触ってもいい?」
「……ふっ。はい。どうぞお気の済むまで」
グレンは笑いながら、私の要望を受け入れてくれた。
グレンとのもふもふタイムを終えて、部屋にひとりになると、椅子に座って机の上にメモとペンを用意した。そうしてひとりになった部屋の中で、自分の置かれた状況をメモに書きだしながら、改めて確認することにした。