雨降る傘の下で、愛は始まる〜想う愛に想われ愛
嘘から決まった外出は、最後の同行研修となった。
「朝比奈、起こしてやるから。どうせ寝るだろ?」
始めの頃と違って、神崎さんは笑いながら私に話しかけた。
「寝ても、いいんですか?」
「あぁ。仮彼だから、枕代わりに、肩も貸してあげるけど?美咲」
「そ、それは大丈夫です」
神崎さんは笑いながら、パソコンのキーボードを叩き出した。
私は、恥ずかしくてうつむいて、目を閉じた。
神崎さんの笑顔と、美咲と呼ばれることにどきどきが止まらない。
結局、起こされた時には、やっぱり神崎さんの肩を枕代わりにしていた。
「す、すみません」
「いつでも貸すよ。一応仮彼だからな」
「もー、恥ずかしいです」
「朝比奈、からかうと面白い」
「神崎さん!」
それから駅に着くまで神崎さんにからかわれていた。

現地に着いた時には、神崎さんはいつもの営業マンに戻っていた。
今日が最終となると、神崎さんの説明している姿も、一緒にお昼を食べる時間も、移動時間も、過ぎて行く時間がとても寂しく感じた。

全ての客先との打ち合わせが終わった時には、夕方になっていた。
「せっかくだし、ちょっとだけ歩こうか」
2人で街をぶらぶらしていると、辺りは段々と暗くなっていき、街はネオンで彩られた。
「ここら辺は、声掛けられやすいから、俺から離れるなよ」
「わかりました」
私は神崎さんについて、歩いていた。
いつも出張に行ってもゆっくりできない。
初めてゆっくり見る街並みを楽しんだ。
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