雨降る傘の下で、愛は始まる〜想う愛に想われ愛
津田さんは、あれこれとお店を見て回り、買い物をして両手は塞がっていた。
「私、少し持ちますから」
「助かるよ。じゃあ、こっち軽いから」
普段着を買った袋を持ってあげると、身軽になったようで
「朝比奈とデートしているみたいで、俺、久々に楽しい!」
そんな冗談を言って楽しんでいる津田さんを見ていると、こっちまで嬉しくなる。
でも、朝陽さんが仕事なのに、私だけ津田さんと出かけて、申し訳ないなぁ・・・
考え事しながら歩いていると
「朝比奈、笑ってくれよ」
悲しい目で私を見つめて、頭をポンポンとされて、高校生の時、同じことを言われたのを思い出した。
津田さんが実習の最後の日、私は寂しくて泣きそうになっていた。
大学生だった津田さんは、あの頃の私にとって大人で、そして憧れだった。
「津田さん、変ってないですね。あの日と同じだ・・・あの時の先生だ」
「朝比奈・・・」
津田さんに見つめられた時、津田さんの携帯が鳴った。
「ちょっと待っててね」
会社からの電話のようで、津田さんは色々と指示を出しているようだった。
電話が終わると、津田さんが近寄ってきて
「ごめん、朝比奈。九州の案件で急ぎのことがあって、データを確認しながらじゃないと対応できないんだ。ここからじゃ、ホテルでリモートするより、会社の方が近いなぁ。悪いけど、行くね」
「はい、気をつけてくださいね。あっ、これ荷物」
「今日はありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「・・・なぁ、朝比奈」
「はい」
「・・・いや、何でもない。じゃあ、また月曜日な」
何か言いたそうだったけど、そのまま振り向いて歩いて行った。
< 57 / 96 >

この作品をシェア

pagetop