天才幼女錬金術師に転生したら、冷酷侯爵様が溺愛パパにチェンジしました!
こちらの世界には、指きりという慣習はなかっただろうかと一瞬不安になる。だが、父は同じように立てた右手の小指を差し出し、ふたりはしっかりと指を搦めた。
* * *
ジェラルドの生活は、ミリエラの帰宅によって、大きく変わることになった。
今までは、朝食をとることなく、すぐに仕事部屋に向かっていた。
仕事をするためではない。かつて、愛した人の姿を眺めるために。
アウレリアとの十年は、いくつもの記録板に残してあった。何度見ても、何度見ても物足りない。
そこにあるのが、過去のアウレリアであって、新しい彼女の笑顔を見ることができないと知っているから。
けれど、ミリエラが戻ってきてからは、本宅の空気は一気に明るいものへと変化した。
「侯爵様」と、ジェラルドのことを呼びながらも、常にミリエラとの間に立っているカーク。
彼がミリエラを守ろうとする様は、ジェラルドからしてみれば子猫が毛を逆立てている程度の威圧感しかなかったけれど、娘のためにそこまで一生懸命になってくれる存在というのは実にありがたいものであった。