ふたりは謎ときめいて始まりました。



「楓ちゃんも美佐子さんも、プリンが美味しいって言ってくれて嬉しいな。美佐子さんなんて作り方教えて下さいっていうくらいだもん。大成功だ」

 ふたりが帰った後、ミミは陽気に洗い物をして片付けていた。

「おい、どういうつもりだよ。あんな嘘ついて」

「嘘? それならロクだって久ちゃんに魔法を消しゴムにかけたなんて言ってたじゃない」

「あれは、その遠まわしに楓ちゃんの良心に訴えただけで」

「それが、楓ちゃんにとったらお節介だったの。あの時、私たちがあの場にいなければ、楓ちゃんは久ちゃんに声かけて、すんなりと消しゴムを返せたはずだった。それを邪魔したのは私たちで、その間に消しゴムをなくしてしまった」

「だからといって、あれはやりすぎだろ。落とした消しゴムが本当に戻ってくるわけないだろ」

「だから、それは私たちが同じのを買って偽装するの。今度、久ちゃんに会ったら、どんな消しゴムで、使用具合はどうだったか、さりげなく聞けばいいだけ。ロクだって言ってたじゃない。戻ってこなかったらさ、『お詫びに俺が買ってプレゼントするよ』なんて」

「確かに言ったけどさ……」

 ロクはもごもごしてしまう。

「あの問題は消しゴムが戻る、戻らないじゃなくて、楓ちゃんの心を軽くしてあげるのが一番だったの。嘘も方便っていうでしょ。美佐子さんも、ちょっと無理があると思っていただろうけど、娘の気持ちが晴れた事はすごく喜んでたじゃない」

「それで、それは人助けで、ビジネスじゃないと? だから依頼料をとれなかったんだ。ふーん」

 やり込められるのが嫌で、ロクは反撃する。

「だって、あれは無料相談の域でしょ。子供の前でお金の話なんてできない」

「そんな事では、運営が任せられないぞ」

「なんで、そんなに意地悪なこというのよ。ロクが私の立場でも絶対に同じことしたと思う」

 ミミはそれ以上話したくないと洗い物に集中する。カチャカチャとお皿の音が激しく鳴っていた。

 この部屋の太陽が雲に隠れて寒々とし、急に場の空気も冷え込んだ。後ろを向いたままのミミを見て、ロクは罪悪感にいたたまれなくなった。

「ごめん、ごめん、ミミが上手く処理したから、ちょっとアレだ」

「何よ、アレって」

「だから、アレだよ。悪かった」

 明確に言わないロクに呆れつつも、頭を下げたロクが可哀想に思えてミミは簡単に許してしまう。

「別にいいけどね。ところでさ、今日は五月六日でしょ。楓ちゃん、学校休んで来たのかな」

「何、いってんだ。ゴールデンウイークは今日までだぞ」

「えっ、そうだっけ。今日は月曜日だっけ?」

「火曜日だよ。五月三日土曜の憲法記念日、五月四日日曜のみどりの日、五月五日月曜の子供の日と続いたから振り替えが今日」

 ミミはいまいちぴんとこずに、こんがらがっていた。

「一日休みが増えようが、俺たちには関係ないからな。それにしても久太郎の大量の消しゴムは一体誰が用意したんだろう」

「参観日の時にわかるんじゃない? この謎を解くには、誰が久ちゃんの消えた消しゴムのことを知っているかってことだと思う。久ちゃんの話を聞いた誰かが、私たちと同じように推理して、ああいう粋な計らいをしたんだと思う」

「もしかして、担任かな?」

 ロクは可能性を色々と探っていた。

「さて、逸見探偵。報酬はないですけど、この謎を解きたいですか?」

「ああ、もちろん。助手のミミ君」

 ふたりは顔を見合わせ最高のコンビとでも言いたげに笑い合った。



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