あやかし戦記 見えない糸
ヴィンセントとアリスが目指す隣国は、他国との関わりを持とうとせず、少しでも侵入しようものなら武力を持って追い出される、そんな鎖国である。そのため、車や列車といった交通機関は存在せず、馬で山道を進み、国境をこっそりと越えるしかないのだ。

人が多く集まる住宅街や市場などの場所は避け、ヴィンセントとアリスは裏通りを走る。それでも、人々の楽しそうな声は耳に入り込んでくるものだ。その楽しそうにする人々の多くが、この世界に妖がいること、そしてアレス騎士団の存在を知らない。

裏通りを抜けると、家がまばらになり、野菜や穀物を育てる畑などの存在が大きくなる。ここまで来るともう人の楽しげな声は聞こえなくなり、一気に辺りは静かになる。ヴィンセントの耳には、風を切る音だけが響いていた。

馬で走る先には、どこか不気味な雰囲気を待った大きな山が見えてくる。不気味に見えるのは、先ほどまで晴れていたはずの空が重い鉛色の雲に覆われているせいでもあるかもしれない。
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