あやかし戦記 見えない糸
(ここで多くのギルベルトさんの部下が行方不明に……)

不気味な山を見てそのことを思い出すと、手綱を握る手に嫌でも力が入る。それに気付いたヴィンセントは、慌ててイヅナのお守りを取り出して握り締めた。

「大丈夫、大丈夫、大丈夫……」

言葉というものは、人が使える唯一の魔法である。言葉一つで勇気が湧いたり、逆に気持ちが沈んでしまったりするものだ。

「大丈夫、大丈夫、大丈夫……」

ヴィンセントがそう唱えているうちに、馬は山の中へと入っていく。巨大な木々で覆われた山の中に入ると一気に薄暗くなり、さらに不気味に感じる。

地面に散らばった落ち葉を踏むザクザクという音がうるさい。山道を進めば進むほど、ヴィンセントの中で不安が大きくなっていった。先ほどからずっと誰かに見られているような気がして、弓を構えながら辺りを見る。

視線を感じる方を見れば、一羽のフクロウが飛んでいるのに気付いた。ギルベルトの式神と同じ白いフクロウである。
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