惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「じゃあ、なぜルーカスは惚れ薬を自ら飲んだのでしょうか?」

 ルーカスが何を思って惚れ薬を飲んだのかは、あまり気にしない様にしていた。
 でもよく考えたらおかしい事だった。
 なぜルーカスはあの時そんな行動をとったのか・・・?
 ジルさんの話を聞いて、ある仮説が頭に浮かんだ。

「もしかしたら・・・彼には他に好きな人がいるけど、私の左手の傷の責任を取らなければいけないという責任感から、惚れ薬の力を借りて自分の気持ちを無理やりねじ曲げたのだとしたら・・・」

「・・・・・・え、ええええ・・・?」

 気が抜けるような驚きの声を上げ、ダンさんは目を白黒させながら立ち尽くしている。

 でもこれなら、彼が惚れ薬を飲んだ理由になる。
 だってすでに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 そんな意味の無い事を、無駄が嫌いな彼がするわけが無い。

 私はルーカスがいつも使っているであろう机に目を移した。

 ルーカスの机の上には、数枚の書類の束と羽根ペン、そしてエメラルドが散りばめられた、まるで宝箱のような装飾をされた大きい木箱が置かれている。

 本当に緑色が好きなのね・・・。
 いや、本当に好きなのは大切な彼女の事かな・・・。

 私はその綺麗な木箱をもう少し近くで見てみようと足を踏み出した時、ドレスの裾を踏んでバランスを崩した。

「・・・あっ!!」

 前に倒れかけた私は咄嗟にルーカスの机に掴まり、なんとか持ちこたえたが、その時に木箱に手が当たって床へとゆっくり落ちていった。

 ガッシャアアアン!!!!

 派手な音を立てて落としてしまい、木箱は蓋が取れて中の物が床に散乱した。
 慌ててそれを拾いあげようと、しゃがんだ時・・・散らばっているハンカチのような白い布を数枚手に取って愕然とした。

 ・・・どうして・・・?

 それは・・・全て私が刺繍をしたハンカチだった。

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