惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「それより、アンタこんな所で呑気にしててもいいの?エリーゼ行っちゃったわよ?」

「ああ・・・だが・・・。これ以上エリーゼに嫌われるのは・・・耐えられない・・・」

 手で顔を覆い、まるで死を目前に脅える様なルーカスの姿なんて、誰も想像出来ないだろう・・・。
 ルーカスにとっては、エリーゼ嬢に嫌われる事は死よりも恐ろしい事のようだ。

 ユーリはそんなルーカスを呆れた様に見つめ、ため息をついて足を組み直した。

「さっき街を歩いてた時、あの公女が人殺しそうな目で馬車に乗ってるのを見たんだけど・・・大丈夫?今日彼女と会ったんでしょ?なんかこの部屋、あの女の香水臭いし・・・」

 うん・・・多分僕が持ってるこのルーカスの上着が発生源だね。
 もうさっさと捨てとくべきだったな。
 臭いし、なんか色々落ちてくるし・・・。

「私の時みたいに、エリーゼに手を出すつもりじゃないの?」

 ・・・確かに・・・。
 ユーリは以前、ルーカスと話をしている所を公女に見られて、公女の手の者に誘拐されかけた事がある。
 ・・・まあ、その時、僕が彼女を助けた事がきっかけで今こうして夫婦でいられるのだけど・・・。

「ああ・・・だがエリーゼに危害が加えられる事は無い。そんな事するなら俺の『影』が対応する」

 ・・・・・・

「お前、さっき『影』の任務解いてたよな?」

「・・・」

 ガッッ!!バッ!ダッッ!!

 一瞬沈黙したかと思ったルーカスだったが、僕が瞬きをする間に謎の効果音と突風を発して姿が消えていた。
 執務室の壁に掛けてあったはずのルーカスの愛剣も無くなっている。

「相変わらず早いわね」

 ユーリはそう呟くと、開けっ放しになっている窓を眺めていた。
 二人きりになった僕達も、夫婦として色々と話し合わなければならないだろう。
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