惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「どうせ偽物を掴まされたんだろ」

 それを使ってこの女がどんな悪さを考えていたのかは全く興味は無いが、惚れ薬なんてものを信じて買わされるとは・・・なんとも滑稽な話だな。

「ねえ、なんか今すごい失礼な事思ってない?」

 俺の憐れむような視線に気付いたのか、ユーリは不服そうにこちらを睨んでいる。

「ほんと、同じ幼なじみのはずなのに、エリーゼと私の扱いの差が酷いんだから・・・」

「当たり前だろ。エリーゼとお前を一緒にするな」

 俺にとってエリーゼは何者にも代えられない、唯一無二の存在だ。
 男爵という爵位を渡されてから、ありとあらゆる令嬢達から言い寄られる様になったが、誰もエリーゼと比べる価値もない・・・エリーゼ以外、俺には必要ない。

「はいはい、もうさっさと嫁に迎えなさいよ。アンタのせいであの子は取り返しのつかないポンコツに育っちゃったんだから・・・ちゃんと責任取りなさいよ。」

「・・・・・・」

 ユーリの言葉に俺は口をぐっと噤んで目を伏せた。

 そんなこと、この女に言われなくても分かっている・・・分かっているが・・・。
 俺は昔、エリーゼにプロポーズをして失敗に終わっている・・・。
 それも・・・本当に最低なプロポーズだった。
 彼女の傷ついた表情・・・そしてその後の拒絶の言葉・・・それが6年経った今も忘れることが出来ない。
 あの時の事が、取り返しのつかない後悔として、俺を苦しめ、彼女に告白する決意を鈍らせている。

 もしもまた彼女に拒絶されたら・・・俺は耐えられる自信が無い。

「はぁ・・・この話になると相変わらず黙りなのね」

「・・・余計なお世話だ」

 俺は自分のティーカップを掴み取り、一気に飲み干し乱暴にソーサーの上に置いた。
 そしてこのくだらないお茶の席に終わりを告げようとした時だった。

「この惚れ薬なんだけど・・・実はエリーゼにプレゼントしようと思ってるのよ」

「・・・なんだと・・・?」

 突拍子もなくそんな事を言われ、意味を把握するまでに時間を要したが、次の瞬間、体の底から怒りの炎が沸き起こり、俺の口からはワントーン低い声が漏れ出た。

「あら、いいでしょ?どうせアンタは惚れ薬とか信じてないでしょうし」

 もちろん、惚れ薬なんてものは信じていない・・・が、ほんの少しでも本物の可能性があるのならば、エリーゼに使わせる訳にはいかない。

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