惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 エリーゼも疲れているはずなのに・・・彼女はいつも自分よりも人のことを優先する。
 俺は今まで、一体どれだけエリーゼに救われてきたのだろう・・・。
 彼女の居ない人生なんて、考えられない・・・考えたくなかった。

 完全に前の列と離れ離れになった時、俺は歩みを止めた。

 今、言わないといけない。
 彼女とこの先もずっと一緒に居たいと思うなら・・・
 彼女に俺の気持ちを伝えなければ・・・。

「ルーカス大丈夫?休憩しようか?」

 心配するエリーゼに大丈夫と告げようとした、その時だった・・・。

ガサッザザッ

木の茂みから何か動く音がして、その方向を振り返った・・・・・・そこに居たのは・・・野生の狼だった。

 突然現れた目の前の脅威に動揺しつつも、俺はまずエリーゼだけは守らなければと思った。
 目の前の狼は、唸り声をあげながら俺達を威嚇していて、いつ襲ってきてもおかしくない。

 まだ首都にいた頃に、俺は少しだけ剣術を習っていた。
 実戦経験は無いが、俺の荷物には護身用のナイフが入っている。
 それを使えば・・・少なくとも丸腰よりは対処が出来るはずだ・・・。

 エリーゼだけは守ってみせる・・・!

 俺はゆっくりと自分の荷物に手をかけた・・・その時、狼が俺に向かって飛びかかってきた。
 一瞬で目の前まで距離を詰められ、「しまった・・・」と覚悟を決めた時・・・俺は横から強い力で突き飛ばされた。

 地面に倒れた俺が顔をあげると、先程まで俺がいた場所で、エリーゼの手を狼が噛みつき血飛沫が飛び散った。

 俺は誰よりも守りたかったエリーゼに、守られてしまった。
 エリーゼは自分の事より人を優先する・・・
 分かっていたはずだ・・エリーゼがとる行動は分かっていたはずだったのに・・・!!
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