惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 あの時、彼女は左手の小指を失っていた。
 俺は、自分のせいで傷ついてしまった彼女の傷を直視する事が出来なかった。
 村の人達は、俺が気にすると思ったのか、エリーゼの小指のことを教えてくれなかった。

 ・・・結局、俺がその事を知るのは最悪なタイミングになってしまう。

 彼女は傷の治療と高熱で寝込み、お見舞いも出来ない状態だった。
 それでも俺は何度もエリーゼの家へと向かった。
 ただ、彼女が早く良くなるように・・・それだけを願った。

 そして俺は、明後日にはもう首都へ向かわなければいけなかった。
 今、入学を遅らせてしまえば、学費免除も全て無になってしまう・・・このチャンスを逃がすわけにはいかなかった・・・。

 ふと、彼女の家の郵便ポストが目に止まった。
 もしかしたら、このまま俺はエリーゼに会えないまま首都へ行く事になるかもしれない。
 それならば・・・せめて手紙を彼女に送ろう。

 自宅へ帰った俺はすぐにエリーゼへの手紙を書き始めた。
 手紙なんて書いたこと無かったが、とにかく伝えたくて伝えられなかった事をすべて書き綴っていった。

 俺がなぜ首都へ行く事を決めたのか・・・エリーゼ、君の夢を俺が叶えたいと思ったから・・・。
 必ず迎えに行く・・・だけど期間は決めた方がいいな・・・10年後なら・・・22歳になったら、必ず迎えに行くから・・・。
 ずっと伝えたかった想いも・・・。
 ずっと・・・出会った時から、俺はエリーゼの事が好きだ。

 俺が生まれて初めて書いた手紙は、何枚にも渡る、自分でも恥ずかしくなるほどの愛を綴ったラブレターとなった。
 首都へ向かう日、エリーゼの家のポストにそのラブレターを入れて、俺は一人で村を出発した。
 
 だが、俺の心は深い後悔で埋め尽くされていた。
 こんな風にエリーゼと離れ離れになる事は望んでいなかった・・・。
 彼女と面と向かって話したかった。
 目を見ながら告白して、いつか迎えに来ると約束を交わし、彼女の前で格好良く出発したかった。

 あの時、俺がもっと早く狼に対処出来ていれば・・・。
 俺がもっと強かったならば・・・彼女をちゃんと守れていたら・・・。
 もっと早く・・・彼女に告白出来ていたなら・・・。

 なぜ俺は彼女の前ではこんなにも格好悪い姿を晒してしまうのだろうか・・・。

 そんな情けないままの俺の姿を見せたくなくて、俺は首都へ行った後、成功するまでは彼女の前に姿を見せない事を決めてしまった。


――――あの時・・・あれだけ嫌という程、後悔したというのに・・・
 どうして俺は・・・この後悔を・・・繰り返してしまうのだろうか・・・。
 
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