惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「・・・あはは!!知ってるよ。ずっと私と結婚するって言ってたもんね。ほんと、あの時のライオスは可愛かったなあ」

 ライオスの告白を笑いながら軽く流したエリーゼを見て、俺は少しだけ冷静さを取り戻した。
 だが、ライオスはそんな言葉を想定していた様に、変わらず真っ直ぐにエリーゼを見つめ続けている。

「・・・じゃあ、今も僕の事を可愛いと思ってる?」

「え・・・?」

 笑っていたエリーゼの表情は驚きへと変わり、その深緑の瞳がライオスの瞳を捉えた。

「エリーゼ姉さん・・・いや・・・エリーゼ・・・あなたが僕の事をずっと弟としてしか見てない事は知ってる。だけど僕にもどうかチャンスを与えてくれないかな・・・。少しずつでもいいから、僕の事を男として見てほしい・・・そしていつの日か、僕がエリーゼに相応しい男になった時には、どうか僕と結婚してください」

 まるで俺がこの場に存在しないかのように二人が見つめ合っているのを、情けなくも俺はただ見ている事しか出来ないでいる。

「・・・ごめん・・・私・・・今はまだ誰とも結婚する気はないの」

 エリーゼのその言葉を聞いて、俺は密かにショックを受けていた・・・だが、同時に自分が告白しなかった事にホッとしていた。
 もし俺が告白していたら、その言葉は俺に向けられていただろう・・・。
 だが、それでもライオスは今もまだその目はエリーゼを捉えたまま離さないでいる。

「それでもいいよ。僕もまだエリーゼ姉さんに見合う男になれてないから・・・それに、口説く時間はたっぷりありそうだしね」

 ライオスの最後の言葉は、俺にだけ聞こえるように言った様にみえる。

「あとエリーゼ姉さん、ごめん。ちょっとルーカス兄さんと二人でお話して来てもいいかな?」

 先程までの真剣な表情は再びあどけない笑顔となり、エリーゼも緊張が解けたように頬が緩んだ。

「え・・・ええ!いいわよ!男同士で話したいこともあるわよね!私は先に家に戻ってるから、またね」

 エリーゼは俺達にそう告げて立ち上がると、パンパンとスカートの埃をはたいた。

「うん、帰る前にまた家に顔出すね」

 ライオスの言葉にエリーゼは笑顔で応えると、手を振りながらその場を後にした。

 俺とライオス、2人だけになった空間はシン…と静まり返り、気温が一気に低くなっていくのを感じた。

 そんな中、最初に沈黙を破ったのはライオスの方だった。

「かの有名な『南のせっかち男爵』も、好きな女性の前ではとんだ腑抜けになっちゃうんだね・・・ルーカス兄さん」

 『南のせっかち男爵』・・・そんな風に俺を呼ぶのは、首都から遥か北に位置する辺境の街に住む連中達だ。

「しばらく会わないうちに偉くなったもんだな。ブルーデン卿・・・。辺境の北の地から遠路はるばる来たくせに、エリーゼに相手もされずに残念だったな」

 武装した言葉で挨拶を交わすと、俺達の中では戦いが始まる鐘の音が鳴り響いていた。
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