惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「笑顔を守る・・・?本気で思ってるの?魔法なんか信じさせて・・・そんなの皆の笑い者になるだけだろ?そうまでして首都に来て欲しいと思ってるの?刺繍の事も・・・実際には1枚も売り物になってないと知ったら、エリーゼ姉さんが悲しむだけじゃないか。成人してからも、男性から恋文の一つも届かないなんて・・・。そのせいでエリーゼ姉さんは女性としての自信を無くして結婚にも悲観的になっている。ルーカス兄さんはエリーゼ姉さんのためなんて言い訳をしながら、全部自分が都合の良いように嘘をついてるだけじゃないか!」

 いつの間にか、ライオスの表情からは笑みが消え去っていた。

「昔からエリーゼ姉さんとルーカス兄さんはいつか結婚するんだと思ってたよ・・・エリーゼ姉さんの好きな物語のように、きっと二人は結ばれる運命なんだって・・・僕は同じ土俵にも立てないんだって・・・。でも今の二人を見て、僕にも十分可能性があるって確信したよ。だってルーカス兄さん、告白もまだしていないんでしょ?」

 痛い所を突かれ、俺も笑みを消してルーカスを突き刺すように睨み付けた。

「・・・お前がいなければ、今頃エリーゼに告白していた」

「へえ・・・また言い訳するの?僕はルーカス兄さんがいたけど、エリーゼ姉さんに告白したよ。」

「・・・!」

 ライオスの言葉に俺は何も返すことが出来なかった。
 ただ、じわりじわりと俺の中で何か嫌な感情が渦巻き始めていた。
 まるで心が闇に支配されるように・・・その闇は広がり続け、俺の身動きを封じ、視界を奪い、聴覚だけが研ぎ澄まされた俺の耳にライオスの言葉がハッキリと聞こえてくる。

「僕がエリーゼ姉さんにプロポーズする事をユーリ姉さんに伝えた時、こんな事を言われたんだ。『ヒロインの結ばれる相手は最初から決まっている。当て馬は所詮はそれ以上の存在にはなれない』ってね。きっと僕に諦めた方が良いと忠告したつもりだったんだろうけど・・・。だけど実際はどうかな・・・。ずっとエリーゼ姉さんの近くにいながら、いつまでたっても関係が進展しないルーカス兄さんも、もしかして本当はただの当て馬だったんじゃないかな・・・?エリーゼ姉さんを迎えに来る王子様の存在は他にいるのかもしれないよ」

 ・・・ああ・・・。そういう事か・・・。

 俺に対する侮辱だとも言えるライオスの言葉は、意外にも俺の中でしっくりときた。

 彼女の好きなロマンス小説に出てくるような王子様になんて、俺はなれない・・・。

 それは俺が6年前、嫌という程思い知らされた事だった。

「そろそろ時間だから、僕は行くね。話が出来て良かったよ。」

 戦意を失い何も言わなくなった俺に対し、ライオスは意気消沈すると、俺に背を向けてさっさと村の方へ帰って行った。

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