惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 そして1週間後・・・差出人にユーリの名前が書かれた箱を持って、俺はエリーゼの家へと向かった。
 誰にも見られないように、俺はエリーゼの家のポストへ素早くそれを入れ、近くに身を潜めて彼女が取りに来るのを待った。
 しばらくすると、家の中から出てきたエリーゼがポストの中身を確認し、中に入っていた箱を手に持って家の中へと戻って行った。

 中身を見たエリーゼは、果たしてどの様な反応を示すのか・・・。
 この計画は本当に上手くいくのか・・・?

 緊張で乾く喉を唾液で無理やり潤し、額から流れ落ちる汗を袖で拭った。
 異常なスピードで脈打つ心臓を深呼吸して落ち着かせ、俺は意を決してエリーゼの家の扉の前に立った。
 かなり控えめにノックし、一呼吸終えてドアをそっと開けた。
 中ではソファーに腰掛けたエリーゼが、惚れ薬を前に頭を抱えているのが見えた。

 俺は家の中に入り扉をソッと閉め、エリーゼの向かい側のソファに座ってしばらく様子を見ることにした。

 エリーゼは俺には全く気付かずに、俯いたまま唸るような声を出してはため息をついている。
 惚れ薬の他に手紙などは入れていない。恐らく、何故こんな物が自分の元へ送られたのか分からず、頭を悩ませているのだろう。
 俺は緊張している体をソファに預け、足を組むと平常心を取り戻そうと目を瞑った。

「うん、やっぱり捨てよう」

 エリーゼの声が聞こえて目を開けると、俺の前で目をまん丸くして固まっているエリーゼと目が合った。

「・・・・・・」

 エリーゼは眉をひそめて首をかしげ、俺の存在を不思議がっている様だ。
 その大きな瞳を、パチパチと瞬きさせながら見つめてくる姿がなんとも可愛らしく、惚けて動けなくなりそうになった俺は、その視線から逃げるように目を逸らした。

 この後、俺はエリーゼと3秒間目を合わせるという重大なミッションが控えているというのに、こんなんで大丈夫だろうか・・・?
 先程から尋常じゃないほど汗が出てきて止まらない。
< 149 / 212 >

この作品をシェア

pagetop