惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 だが、もう後戻りは出来ない・・・このチャンスを失う訳にはいかない。

「・・・・・・・・・え?」

 その声を聞いて俺は我に返り、顔をあげると空になった瓶を手に持ち、驚愕の表情を浮かべたエリーゼが立っていた。

 次の瞬間、エリーゼが俺の方を向き、俺達はバチッと目が合い見つめ合う形になった。

 エリーゼの背後の窓から差し込む日差しが逆光となり、照らされたエリーゼの瞳には光が届かず、いつもより深い深緑色の瞳が俺を見つめている。
 いつもの瞳の色も好きだが、この色も悪くない・・・

 いや・・・好きだな・・・やっぱり俺はエリーゼが好きだ。

 まるで時間が止まった様に、3秒間のカウントをすることも忘れていた。
 何の反応もないエリーゼを見て、惚れ薬はただの偽物だったと察した。
 だが今の俺にはそんな事はどうでも良くなっていた。
 
 そうだ・・・今度こそ、自分の想いを自分の言葉で伝えよう・・・今、伝えるんだ。

 高鳴る心臓が熱を灯し、全身を駆け巡り体中を延焼(えんしょう)し始めた・・・。
 その時だった。

 見つめ合っていたエリーゼの顔色がだんたんと赤く染まっていく。
 少し困った様に瞳を震わせながら・・・まるで恋する乙女の様な表情で俺を見ている。

 そんなエリーゼを見て俺は確信した。

 この惚れ薬は本物だ・・・。

 今この瞬間、エリーゼの気持ちは俺に向けられている。
 ずっと・・・ずっと恋焦がれていた・・・。
 それがたとえ、惚れ薬により作られた感情だったとしても・・・。

 エリーゼが俺を好きでいてくれる。

 ただそれだけで俺の心は満たされ、たまらなく嬉しい気持ちが体中を駆け巡る。

 俺の中でエリーゼへの気持ちを押さえ付けていたトラウマという鎖が、ガラガラと大きな音を立てて崩壊していくのを感じた。

 俺は本能のまま立ち上がり、エリーゼの両手を掴むと、自分の胸元へと一気に引き寄せた。

「エリーゼ、好きだ。俺と結婚しよう。」

 20年間、どうしても言えなかったその言葉は、驚く程あっさりと俺の口から伝えられた。
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