惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 再び屋敷に戻ると、執務室で丁寧に積み上げられている書類に目を通した。
 ダンに今日一日分の俺の仕事を任せていたが、ダンは俺の筆跡を完全にコピーし、俺が書いたとしか思えない書類はその内容までも完璧に仕上げられていた。

 昔は俺の『影』として裏で動いていたが、今思えば補佐として表で動いてくれる方がその能力を発揮出来る。
 たまにこうして仕事を任せてエリーゼとの時間を増やす事にするか。

 俺は机に座り、エリーゼの両親へ向けた結婚式への招待状を書いた。
 『影』にそれを届ける指示を出し、俺は執務室の明かりを消して部屋を出た。

 懐中時計を懐から取り出し、時間を確認すると間もなく日付が変わろうとしていた。
 屋敷の扉を開け外へ出ると、雲ひとつ無い夜空の中で、存在を主張する様に輝きを放つ満月に照らされた。
 屋敷の使用人達も皆寝ている中、静まり返った空間で「ホー、ホー」と(ふくろう)が鳴く声だけが響いている。

 だが、まだ俺には行かなければならない場所がある。
 再び、あの薬を手に入れるために・・・。
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