惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 ユーリの家から戻った俺は、出先から戻ってきたダンの報告を聞く途中で、運ばれてきた木材と石を屋敷の保管庫へと移動させた。
 それを見て「えええええ!!!?」と叫び、何故か泡を吹いて倒れたダンを放置して、コールを呼び出し再びエリーゼの元へと駆け出した。
 俺の懐に惚れ薬を2本(たずさ)えて・・・。

 1本は今日、エリーゼと会う前に・・・2本目は出来れば結婚式当日まで取っておきたい・・・。
 そのためにも、エリーゼには今日中に首都へ来てもらわなければいけない。

 そんな事を考えていると、いつの間にかあの大樹と石があった森へとやって来ていた。
 
 俺はエリーゼの家に行く前に、それがあった場所へ向かった。
 堂々とそびえ立っていた大樹は大きな切り株となり、石があった場所はそこだけ不自然に草が生えておらず、土が露出している。

 予め決めていた事ではあったが、実際にこうしてこの場所から無くなってしまうのは、なんとも寂しい気持ちになる・・・。
 エリーゼは・・・なんと思うだろうか・・・。

 その時、人の気配を感じて即座に木の影に隠れた。
 そこに現れたのは俺の愛してやまないエリーゼだった。

「え・・・?なんで!!?」

 大樹の切られた痕を見たエリーゼは声をあげ、切り株の表面を手でなぞっている。
 今にも泣きそうになっているエリーゼを見て、息が詰まりそうになった。

 大丈夫だエリーゼ・・・俺達の思い出は、ちゃんと残っているから・・・。
 早く伝えなければ・・・早く・・・。
 
 俺は懐から惚れ薬を取り出し、その蓋を開けた。

 俺のやり方は間違えてる。そんなの最初から分かっている。
 だけど、こんな物に(すが)るしかない俺を・・・どうか嫌わないでくれ・・・。

 その願いと共に、瓶の中身を一気に飲み干した。

「エリーゼ・・・やはりここにいたのか」

 俺はさりげなく声をかけながらエリーゼの前へ現れた。
 
 エリーゼは、何故俺がここにいるのか分からないようで、不思議そうに俺をみつめている。
 俺はその視線を逃さないように目を合わせる。

 1・・・2・・・3・・・

 ちょうど3秒のカウントを終えた時、エリーゼの顔は一瞬で真っ赤になった。
 その姿を見て、泣きそうな程に込み上げてくる愛しさに震えながら、俺は6年前に伝えるはずだったセリフをエリーゼに告げた。

「君を迎えに来たよ。エリーゼ、俺と結婚しよう」
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