惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 その大樹があるはずの場所に辿り着いた筈なのだけど・・・
 あるのは不自然なほどスッキリとした空間と、まるで大樹を切り倒した様な切り株・・・?

「え・・・?なんで!!?」

 私はその場に膝をつき、まだ新しいと思われるその切り口を手でなぞった。

 なんで・・・?あの大樹がなんで切られちゃってるの・・・?
 まさか昨日の深夜の騒ぎは・・・これを誰かが持っていく音だったの!?
 長い間、私の心の拠り所になっていたあの木が・・・・・・こんな形で失ってしまうなんて・・・

「エリーゼ・・・やはりここにいたのか」

 その声がした方向へ振り返ると、木の茂みからルーカスが愛馬のコールに跨り、私の方に近寄って来る。
 
 ・・・なんでルーカスがこんな朝早くここに・・・?

 私を見つめるルーカスの瞳を、私も見つめ返した。・・・が、昨日の出来事・・・いや、夢を思い出して顔から火が出る様な熱を発して固まった。

 ルーカスは、昨日と同じ様にとろけるような笑顔を浮かべ、私に向かって口を開いた。

「君を迎えに来たよ。エリーゼ、俺と結婚しよう」

 ルーカスはまるでロマンス小説に出てくる王子様の様なセリフを言うと、馬に跨ったまま私に手を差し伸べた。
 私はそのシチュエーションに思わずときめいてしまい、しばらく浸っていたが、自力で何とか我に返り、冷静な頭で現状を見つめた。
 ルーカスは変わらぬ笑顔で私に手を差し伸べている。

 ・・・えっと?・・・迎えに来たから馬に乗れと・・・?
 でもこれ多分、行先は私の家じゃないよね・・・?
 この手を素直に掴んだら駄目な予感がする・・・

 さっき結婚って言ってたし・・・てことは・・・昨日の出来事、やっぱり現実だったの・・・?

 しかもこの様子では、どうやら惚れ薬の効果はばっちしご健在の様である。

 しかし今はそれよりも目の前の状況の方が大事だ。
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