惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 程なくして、ピタリと肩の震えが止まり、フフっと笑うとフルフルと首を振って顔をあげた。

「いいえ、そんなハズはありませんわ・・・ルーカス様の婚約者はあなたですわ」

 いや、なんでよ。
 さっきあなたが勘違いするなって言ってたじゃん・・・。
 そんなにユーリと関わりたくないの・・・?

 完全に復活した悪役令嬢は扇子を閉じると、ビシッと私に扇子の先を突き付けた。そしてニヤリッと下品な笑みを大きく浮かべて息を吸い込んだ。

「だから邪魔なあなたにはここで消えてもらいますわ!!!」

 その声を合図に、私の腕を掴んでいた手に力がこもり、顔を上げると短剣の切っ先が、今にも私目掛けて振り下ろされようとしていた。
 思わず息を飲み、死という単語が頭を過ぎった。

 私はここで死ぬのだろうか・・・。
 むしろ死んでしまえば、こんな辛い気持ちから解放されるのかもしれない・・・。

 ・・・だけど・・・どうせここで死ぬのなら・・・せめてルーカスに一度だけでも・・・私の気持ちを伝えれば良かった・・・。
 伝えるチャンスはいくらでもあったのに・・・。
 意地になって・・・言い訳を並べて・・・私は何も伝えようとしなかった。
 全部・・・私の自業自得だ・・・。

 ああ・・・伝えたかったな・・・。
 惚れ薬の効果だったとしても、ルーカスはあんなにも私の事を好きだと言ってくれたのに・・・。
 私も好きって伝えれば良かった・・・。
 そしたらきっと・・・ルーカスは満面の笑みを見せてくれたはずなのに・・・。
 あんな悲しみに満ちた顔じゃなくて、最後にルーカスが幸せそうに笑う顔が見たかった・・・。

 ギリッと短剣を握る男の手に力が入り、その手が振り下ろされる。

 ・・・会いたい・・・ルーカスに・・・伝えたい。
 まだ、死にたくない・・・!!!

「・・・ルーカス!!!!!」

 力を込めて動かそうとした体は全く動かなかったけれど、渾身(こんしん)の叫びをあげ、祈るようにギュッと目を瞑った。
 
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