惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 その後も、同じようなやり取りを繰り返した結果、2人の作品は粘土の破片が散らばった、もはやゴミとしか言えない作品が出来上がった。

 それを見た先生は、ピクピクと片目を痙攣(けいれん)させながら口を開いた。

「・・・これは何だい・・・?林檎を爆発させたとでも言うのかい?その想像力だけは褒めてあげよう」

 明らかに不快さに顔を歪ませる先生をなんとかしようと、幼い私はビシッと手を挙げて反論した。

「先生!芸術は爆発だ!て言ってませんでしたか!?」

「・・・いや、良い言葉だと思うけど、僕は言ってない」

 呆れた口調で返す先生に、今度はルーカスが表情を変えずに話し出した。

「先生、俺達はこの林檎の未来の姿を作りました。人の口の中に入れられ、咀嚼(そしゃく)される未来の林檎の姿を・・・。もし御希望であれば、更にその先の未来も表現しましょうか?」

「うん・・・僕は君のことが嫌いだな」

「先生、相手するだけ無駄だから」

 最後は呆れたユーリが宥め、その場は収まった。
 そういえば、こんなやりとりを日常茶飯でやっていたっけ・・・。

 この時の私は、ルーカス達が何を言ってるのかよく分かっていなかった。
 今思えば、ルーカスは私が傷つかない様に、いつも気を利かせてくれていたのかもしれない。

 幼い私は自分とルーカスの作品を見比べるように見つめている。
 まるでお揃いみたいな2人の作品に、幼い私は満足そうに目を細めた。

 ルーカスはそんな私の姿に気付くと、とても愛おしそうに私を見つめていた。

 私はそんな2人の姿を、懐かしく思いながらしばらく見つめていた。



 これは遠い昔の記憶だ。
 あの頃の2人は、お互いが傷つかない様に色んな嘘をついていた。
 2人は優しい嘘つきだった。
 それはきっと今でも・・・



 その時、突然その光景がグニャリと歪み、全く違う場面へと切り替わった。

 平らだった道が斜面になり、平衡感覚を失ってフラッとよろけたが、なんとかバランスを取って耐えた。
 見上げれば青空が広がり、周辺には手入れがされてないような木々が生い茂っている。

 やはり見覚えのあるその光景に、左手の傷がズキッと痛んだ。

 その時、「グルルルルッ」と獣が唸る様な音がした。

 行ってはいけない気がする・・・だけど・・・行かないと・・・。

 私は緊張しながら、慎重に音が聞こえた方向へと進んでいく。
 その先で見たのは・・・。

 左手から血を流して倒れている私、少し離れた場所でうつ伏せになり体を起こそうとしているルーカス、そして2人に向けて唸り声を上げて構えている狼。

 再び左手の傷がズキンッと強く痛み、右手でその手を強く握った。

 これは・・・間違いない。

 私が小指を失った、あの日の記憶だ。
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