惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 俺は動く気配のないエリーゼの顔にそっと近づき、その唇に自分の唇を重ねた。
 唇が触れた瞬間、ビクッとエリーゼの体が跳ねるのが分かった。ゆっくりと唇を離し、エリーゼの顔が分かるくらいに顔を離した。

 エリーゼは、顔から湯気が出る程の熱を発し、恥ずかしそうにしていたかと思うと、それを隠そうとするように少し拗ねた様にムスッとして、何か言いたげな顔で俺を見つめている。

 もう一度キスしたらさすがに怒るだろうか・・・。
 仕方ない。残念だが・・・今日はこれくらいにしとくか。

 俺が名残惜しそうにエリーゼから離れようとした、その時だった。

 突然ガシッと顔を掴まれたかと思うと、ギュッと固く目を閉じたエリーゼが目前に迫り、俺の唇に突撃する様に唇を重ねてきた。

 ゴチンッ!!

 ・・・と唇越しに思い切り歯が当たり、エリーゼは俺から顔を離し、両手で口元を押さえて痛そうに(もだ)えている。
 恥ずかしさからか、痛みからかは分からないが、エリーゼの瞳には涙が滲んでいた。

 当然、突撃された俺の唇もジンジンと痛む。だがその痛みすら、これが夢ではないという事を証明し、嬉しく思え感動していた。

 ああ・・・もう・・・その不器用な所も可愛くてたまらない・・・恥ずかしがる姿も愛しくてたまらない・・・。
 もっとエリーゼに近付きたい・・・体も・・・心も・・・。

 俺は再びエリーゼを抱き寄せ、額をコツンと合わせた。
 そして視線を落とし、彼女の唇の状態を確認する。出血はしていないが、ぶつかった上唇が少し赤くなっていた。

 俺はその唇を消毒する様に、ペロッと舌先で舐めた。
 先程触れた時も思ったが、その唇は驚くほど柔らかく、ほんのりと甘い。もっと味わいたい・・・。

 エリーゼはピシッと石化するかの様に固まっていたが、直ぐに何か言おうとして口を開いた。それを狙って、今度はその唇を奪う様に口付けた。
 
 先程の触れるだけのキスとは違い、深く、その先を探り味わう様に舌を這わせていく。
 行き場を失っていたエリーゼの手が、俺の胸元の服を掴んだ。しっかりと掴んで離そうとしないその手は、僅かに震えていた。
 貪るような口付けをする俺に、必死に応えようとしてくれるその姿に、堪らない気持ちになる。
 時々、エリーゼの口から漏れる色っぽい吐息が、更に俺の欲情を掻き立てる。

 今すぐエリーゼの全てを奪ってしまいたい・・・。このまま・・・。

 長年耐え続けた、俺の擦り切れた理性が限界を迎えようとしていた。

< 190 / 212 >

この作品をシェア

pagetop