惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 時は少しだけ遡る。

「・・・はああああぁぁぁぁ・・・」

 私はソファにもたれながら、大きな溜息と共に頭を抱えていた。

 ・・・なんでこんな物が送られてきたの?

 目の前のテーブルの上には、液体の入った小瓶が1つ置かれている。
 その小瓶に貼られている紙には「惚れ薬」と書かれている。
 首都に住んでいる私の幼なじみが送ってきた物なのだけど・・・一体なんの意図があってこれを私に送ってきたのだろうか・・・?

「惚れ薬を飲んだ者は、1番最初に目が合った相手を好きになる」

 というのはロマンス小説の中ではよくある話だ。
 これを送ってきたユーリとは、よくロマンス小説を回し読みしていた仲だった。

 しかし、惚れ薬なんてものが実在するなんて・・・
 そういえば、首都には()()使()()が住んでいるらしいし、それなら魔法の力を使って人を惚れさせる薬を作る事も可能かもしれない。

 送られてきた箱の中身は、瓶が割れないように丁寧に包装されていたが、手紙は入っていなかった。これを送ってきたユーリの意図が分からずに苦悩する羽目になっている。

 ユーリは確か去年結婚したはず・・・
 もしかしてこれを使って私にも結婚相手を探せ、とでも言いたいのだろうか・・・?
 だとしたら余計なお世話だ。

 私は今年28歳になる。
 私の住む村は田舎ではあるが、首都まで馬車で8時間程の距離であり、そんなに離れている訳では無い。
 年頃を迎えた女性達の元に、結婚相手を探す貴族達からの手紙が来る事も珍しくはない。
 首都に憧れる村の女性と、首都に暮らす高飛車な令嬢を妻にしたくない男性、双方の利点が合わさっての事のようだ。

 ・・・が、幸か不幸か、私にそんな手紙が来たことは1度も無い。
 ・・・別にいいのだけど・・・。

 というのも、私には結婚願望など全く無い。
 今の私の望みはこの住み慣れた村で、自由にひっそりと暮らしていく事・・・それだけだ。
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