惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「ぷ・・・ぷははははハハハハハ!!!」

「・・・?」

 突然笑いだした俺を、ユーリは怪訝そうに見つめて若干引いている。

 いやいや・・・だってさ・・・
 他の男がエリーゼ嬢に宛てた恋文を、片っ端から燃やしていたルーカス自身も、彼女に宛てた恋文を燃やされていたなんて・・・こんな滑稽(こっけい)な話、笑わずにはいられないだろ。
 なんの因果関係でこんな事になったのだろうか。

「一体どうしたのよ・・・?働きすぎで頭おかしくなっちゃったんじゃない?」

「ごめんごめん。とりあえず、手紙の件でユーリが気に病む必要なんて少しも無い事が分かったよ」

「あら、私は別に気にしてないわよ・・・」

 ユーリはそう言うと、プイッとそっぽを向いた。
 
 因果関係と言えば、もうひとつ不思議な事があったな。

 それは、ユーリが今回の件で『惚れ薬』というアイテムを使ったことだ。

 ユーリは知らないはずなのに・・・。
 ()()()()()()()()()()使()()()という事実を・・・。

 ユーリは、ずっとルーカスの事が好きだった。
 エリーゼ譲と同じくらい、一途に彼の事を想っていた。
 それなのに、彼女はルーカスに想いを告げることも、そんな素振りを見せる事もなかった。
 ひたむきな恋心を健気に隠しながらも、気丈に振る舞い続けた。

 その一方で、決して叶わぬ想いに、人知れず涙する彼女の姿を僕は何度も見ていた。
 当時、ルーカスの『影』として表に出る事のなかった僕の事なんて、彼女が知る由もなかったけどね。

 『影』をしていると、たまに不思議な場面に遭遇する。

 人気(ひとけ)のない路地裏で、客が来るはずも無いのに露店を開いていた怪しい老婆。
 陳列された商品の中に、『惚れ薬』があった。

「これを飲んだ者は、1番最初に目が合った相手を好きになる」

 そう説明を受け、「まさか・・・」と半信半疑だったけど、何故かそれに強く惹かれて購入した。
 本当は、ルーカスに惚れ薬を使ってユーリの事を好きにさせようと思っていた。
 彼女に幸せになってほしいと思っていたから・・・。

 そう思っていた矢先、スカーレット嬢の手の者に襲われたユーリを助けた事で、僕はユーリと出会う事になった。
 そのお礼にと、食事に誘われて彼女と顔を合わせた時、つい欲が出てしまった。
 彼女には幸せになってほしい。だけど彼女を幸せにするのは僕でいたいと。
 僕は自分でも気付かないうちに、ユーリに強く惹かれていた。
 
 だけど、ユーリが僕を好きになる事は無い。
 ずっと彼女を見続けていた僕にはそれが分かっていた。
 だから僕は彼女に惚れ薬を使った。

 その結果が、今の僕とユーリの関係だ。
 惚れ薬は本当に存在したんだ。

 そんな僕達の関係を知ったら、卑怯者だと非難する人もいるだろう。
 だけど、そんなの関係ない。

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