惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「ユーリ・・・君は今、幸せかい?」

 突然の僕の質問に、ユーリは少しだけ笑った。

「当たり前でしょ?自分が幸せじゃなかったら、人の幸せなんて願えないわよ」

「そうだね・・・僕も今、とても幸せだよ」

 僕はそう告げて立ち上がり、ユーリの隣に座って愛しい彼女を見つめた。

「・・・本当にどうしちゃったのよ・・・?」

 この後、何が起きるか分かっているかの様に、顔を赤らめ期待する彼女の肩に手を回した。

「愛してるよ、ユーリ」

「・・・・・・・・・わ、わたしもよ・・・」

 ユーリは真っ赤な顔をしながら目を伏せ、恥ずかしそうにしている。
 そんな彼女を引き寄せ、唇を奪った。

 いつもの強気な彼女の事も好きだけど、僕だけに見せてくれるこういう姿もめちゃくちゃ可愛い。
 あと、ベッドの上での彼女はとても従順でそれはもう・・・おっと、これ以上は僕が我慢できなくなるからやめておこう。
 ルーカスと一緒にいるせいか、すっかり彼のせっかちが移ってしまった気がする。

 長い口付けを終え、唇を離した時だった。

 ドンッ・・・

 突然鳴り響いた低い爆発音。

「お、始まったみたいだね」

 パァーンッ!!!

 馬車の窓から夜空を見上げると、夜空に大輪の花火が打ち上げられていた。
 もちろん、これもルーカスが大金をはたいて手配した物だ。

「綺麗ね・・・」

 ユーリも僕が座る側の窓へ身を乗り出し、花火を見始めた。
 目の前に来たユーリの横顔を僕は見つめた。

 惚れ薬を飲み、僕を好きになった彼女は、ルーカスを好きだった事なんてまるで無かったかのように、その恋心はすっかり消え失せていた。
 それと同時に、常に彼女の瞳を曇らせていた悲しみも消え失せ、輝きを放ち始めた。

 エリーゼ嬢とルーカスを見ていると、まるで最初から結ばれる事が決まっていたかの様に、運命的に惹かれあっていた。
 どんな困難が2人を引き離そうとしても、必ずいつか結ばれる・・・まるで物語のヒロイン達のように。

 だけどそんな都合良く、物語のヒロインなんて誰もがなれる訳じゃない。
 そんなヒロインと同じ人を好きになってしまった時なんて、報われない恋に打ちひじかれるしかないじゃないか。
 ただ1人の人を想い続けたとしても、先の未来を信じて努力し、頑張り続けたとしても・・・全ての恋が必ず叶うとは限らない。
 目の前で好きな人が他の人と結ばれる事に、嫉妬心でおかしくなりそうになるかもしれない。

 そうなるくらいなら、惚れ薬を使って幸せになってもいいじゃないか。

 ある日突然、全く別の人を好きになってもいい。
 自分を傷付け、身を削りながら辛い恋を続ける必要なんてない。
 そんな恋を諦めたからといって、全て無駄になってしまったと嘆く必要も無い。
 そんな恋を経験した彼女に、僕は惹かれたのだから。

 空に上がった花火は勢いを増し、夜空を埋めつくしていく。

 その美しさに、エリーゼ嬢が魔法だと信じているのもわかる気がする。
 この無数に放たれる花火の中に、1つぐらいは本物の魔法だってあるかもしれない。
 魔法使いなんて存在しない・・・だけど存在しないと証明する事も出来ない。
 この世界の人間全てを把握することなんて出来ないのだから。

 この世界はとてつもなく広い。
 だけど僕らはその中からただ1人を選び、恋をする。
 
 惚れ薬を使った恋なんて認めない・・・そんな人がいるなら、僕は彼女をこの世界で一番幸せだと思えるくらい愛してみせる。

 見つめる僕の視線に気付いたユーリは、幸せそうに笑った。

 もしもいつか、惚れ薬の効果が切れるのだとしても・・・。
 この笑顔を一生守り続けてみせる。
 彼女に惚れ薬を使ったあの時、そう強く誓ったのだから。

Fin.
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