惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「実は、昨日クッキーを作ってみたんだけど・・・親が留守だったから火加減が調整出来なくて、少し焦げちゃったんだ・・・味の保証は出来ないけど・・・食べる?」

 せめて、もう少し綺麗な状態だったらもっと自信を持ってお勧め出来たんだけど・・・改めて見るとやっぱり出すんじゃなかったと思うくらい酷い・・・
 しかもどうせ自分しか食べないからと、適当に紙で包んだせいで形もボロボロだ。

 そんな不出来な物にも関わらず、ルーカスは目を細め、包んでいた紙ごと両手で大事そうに受け取ってくれた。

「ああ、頂こう」

 彼はその中でも大きく形が残っていたクッキーを1つ手に取り、サクッと1口食べた。
 私は見守る様にその咀嚼する姿を見つめていた。

 その表情は、無表情のいつものルーカスだったが、味わうように噛み締めた後にゴクリと飲み込むと、柔らかい笑みを浮かべた。

「美味いな」

「ほ・・・本当!?」

 ルーカスの言葉に私は驚きが混じった歓喜の声を上げた。
 いや、たぶんきっとその言葉はお世辞も混じっているのだろうけど・・・それでも嬉しいものは嬉しい。

 ルーカスは早くも次のクッキーを手に取っている。

「ああ、食べてしまうのが勿体無いくらいだ」

 正直、私は料理が苦手で、作ったものを褒められる事はあまり無かった。
 私の左手が少しだけ不自由な事から、同居している私の両親は少し過保護な部分があり、私に家の事をあまりさせようとしない。
 今回のクッキー作りも、親がいない時を狙って挑戦したものだった。

 自分が作った物を食べて喜ぶ人がいるって・・・なんて嬉しいことなんだろう。
 私は幸せな気持ちで胸がいっぱいになりながら、ルーカスが私の作ったクッキーを食べる姿を見つめていた。
 そんな私の視線に気付いたのか、ルーカスは手を伸ばして私の頭を撫でると、グッと顔を近づけてきた。
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