惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「そんな熱い視線で見られたら、また襲ってしまうぞ」

 ・・・・・・!!
 耳元で放たれた不意打ちの言葉にみぞおちに謎の衝撃を受けた。
 意地悪っぽく笑みを浮かべるルーカスからプイッと視線を逸らし、ドキドキと高鳴る心臓を落ち着かせた。

「結婚したら、時々エリーゼの手料理を食べたいな」

 追撃やめてぇ・・・。
 落ち着き始めた心臓は再び速度を上げ始めた。

 もしも彼が惚れ薬を飲んでいない状態で、そんな言葉を聞けていたなら、どんなに幸せな気持ちになったんだろう・・・

 ・・・いや、もう惚れ薬を飲んでてもそんなこと言われたら嬉しいわ!!

 私は嬉しさと恥ずかしさから、何かを言わなければとルーカスに返す言葉を必死で探した。

「け・・・結婚したら・・・ね・・・」

 なんでよりによってそんな言葉が出てきたのか・・・
 私の口から出てきたその声はあまりにも小さかったので、ルーカスには聞こえていないと思うが、なんだかだんだん恥ずかしくなってきた・・・

 私は気持ちを切り替えるため、明るい笑顔を作り、無理やりテンションを上げてルーカスの方へ手を伸ばした。

「わ、私も1個食べようかなぁ!!」

 そう言ってルーカスの持っている紙の上に手を置いたが・・・さっきまでたくさんあったはずの、クッキーが跡形もなく綺麗に消えていた。
 細かく砕けすぎて、もはや粉になっていたはずのものまで見当たらない。

「ああ、すまない。もう無くなってしまった」

「はっや!!!」

 ・・・さっき食べるのが勿体無いと言っていた気がするが・・・幻聴だったのだろうか・・・?
 でもこんなに綺麗に食べてくれるなんて・・・次はもっと上手に作れるよう、頑張ろう・・・。
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