惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 それに、私にはずっと前から好きな人がいる。
 何度も想いを告げようと思ったけど・・・どうしても踏み込めないのには理由がある。
 私は目の前の小瓶を手に取り、その中の液体をジッと見つめた。

 もしもこれを彼に飲ませたら・・・私の事を本当に好きになってくれるのだろうか・・・?

 目の前の液体に誘惑されそうになるが、私は首を左右に振り、その小瓶を机の上に戻す。
 こんな物を使って好きになってもらっても、それは本当の気持ちじゃないし、嬉しくない。
 そんな事をしても、きっと後悔するだけだろう。
 相手の気持ちを強制的に自分に向けさせるなんて・・・意味の無い事だ。

 ただでさえ、私と彼の関係は少し複雑なのだから・・・

 「うん、やっぱり捨てよう」

 私はそう決心して顔をあげた時、テーブルを挟んで向かい側のソファで足を組み、寛いでいる人物がいた。

「・・・・・・」

 私は状況が飲み込めず、しばらく言葉が出てこなかった。目の前にいるその人物は、つい先程私の脳裏に浮かんだ人物であり・・・私の好きな人だ。

「・・・うわぁ!!?」

 一瞬幻かと思ったけど、そこに実在している事を把握し、私は反射的に飛び跳ねた。

「ルーカス!いつの間に入って来たのよ!!?」

「・・・ついさっきだが・・・入る前にノックはした」

 私の怒り気味の問いかけに、悪びれる様子もなく無表情のまま淡々と話すのは、私のもう1人の幼なじみ、ルーカスである。
 長身で少し筋肉質だが端麗な容姿は、幼なじみながらも、気を抜くと目を奪われてしまう。鮮やかな朱色の髪は汗で濡れたのか少し湿っていて、いつも以上に色っぽさを演出している。
 私はしばらくその姿を目に焼きつけると、ハッと我に返った。

「って、私が返事してないんだから、勝手に入ってきちゃ駄目でしょうが!!ちゃんと返事があるまで待ちなさいよ!!」

 私の言葉に、ルーカスは一瞬沈黙したが、表情を変えず、目線だけ横にそらした。

「一応待ったんだがな・・・1秒程」

 1秒かーい・・・・・・
 ああ、そうよね・・・あなたそういう人だもんね・・・
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