惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
6:手作りクッキーを食べたい(ルーカスside)
――――惚れ薬の力を借りなければ、君に告白することすら出来なかった俺を、どうか許して欲しい。



「ねえねえ!あれって首都なの?」

「ああ・・・もう見えているな。このペースだともう1時間程走れば着くだろう」

 遠くに見える街並みを見て、新緑の瞳を輝かせながら感動する姿は可憐な少女の様だ。
 真っ赤なリボンで一纏めにしている焦げ茶色の長い髪は、彼女が動く度に、まるでしっぽのように揺れている。
 その姿を見ていると、後ろから抱きしめたくなる衝動に駆られるが、ついさっき手を出したら絶交宣言をされたばかりなので、そこはグッと堪えた。

 俺はそんな(よこしま)な気持ちを払拭(ふっしょく)させようと、コールを引き連れて、木の生い茂る林の中へと入っていった。
 首都と村を行き来する時によく通っていた道なので、湧き水の場所も把握済みだ。
 その場所の近くまで来ると、コールはすぐに顔を突っ込みそうな勢いで水を飲み始めた。

 しばらくすると、エリーゼがこちらへやってきた。
 湧き水の前でしゃがむと、両手で水をすくって飲み始めた。
 その口の端から零れた水がしたたり落ち、ふぅっと小さく息を吐く姿がなんとも艶めかしく思えて、しばらく目が釘付けになった。

「ここにはよく来るの?」

「・・・ああ、コールの水飲み場もあるし、時々休ませている」

 突然エリーゼに問いかけられ、ハッと我に返り、咄嗟に当たり障りのない返答をした。

 俺の言葉に抗議する様に、コールがブルルッと唸る声が聞こえた。
 俺には馬の言葉が分からないが、長年付き合いのある愛馬の言いたいことは何となくわかる。
 「おい嘘つくんじゃねえ。1度たりともここで水を飲ませてくれた事なんかねえだろが」と言いたげな視線で俺を刺してくる。
 それもそのはず。俺は首都から村へ行き来する道中、休憩をとったことなど1度もない。

「コールもお疲れ様。乗せてくれてありがとう」

 エリーゼはそう言うと、コールに歩み寄り、その背中をそっと撫でた。
 コールもまんざらではないようで、俺に向けていた冷たい視線を解き、生えている雑草を食べ始めた。

 エリーゼ・・・君は天使か・・・?
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