惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「ねえ、ルーカス。朝ご飯は食べたの?」

 見惚れる俺に、今度は朝ごはんの心配までしてくれるのか・・・。
 実は今日はまだ何も食べていないが、ここでいらぬ心配をさせる訳にはいかない。

「ああ・・・少しだけな・・・」
 
 中途半端な嘘をついたのは、その先に何らかの期待をしての事だった。
 エリーゼが皮袋から何かを取り出していたから・・・。

 それを手に、もじもじとなにやら悩んでいるようだが、やがて意を決した様に私の前にそれを差し出した。

「実は、昨日クッキーを作ってみたんだけど・・・親が留守だったから火加減が調整出来なくて、少し焦げちゃったんだ・・・味の保証は出来ないけど・・・食べる?」

 その包み紙の中に入っていたのは、お世辞にも美味しそうなものとは言えなかった・・・
 クッキーと言われなければ、それが何かも分からなかったかもしれない。
 しかし、彼女が作った物ならば、食べないという選択肢は無い。

 一生懸命このクッキーを作る姿はきっと可愛らしくて愛らしかっただろう・・・。
 俺はそんな彼女の姿を想像しながら、その手から包んでいた紙ごと受け取った。

「ああ、頂こう」

 俺はその中でも大きく形が残っているクッキーを1つ手に取り、サクッと1口食べた。
 エリーゼは見守る様に俺の食べる姿を見つめている。

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