惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 ・・・・・・ああ・・・・・・これは・・・・・・何かと塩を間違えているな・・・。
 もはやこれは・・・クッキーというよりも塩の結晶に近いかもしれない。
 そんな結論に達しながらも、もちろん俺は表情を崩さない。

 ここで本能のままに口から吐き出してしまったら、彼女が悲しむ姿は容易に想像が着く。
 彼女を悲しませる事などするものか。
 問題ない。俺は昨日、浴びるほどに水を飲まされている。
 これくらいの塩分、体内で中和させてみせよう。

 俺は口の中の塩・・・クッキーを飲み込み、何事も無かったかのように笑みを浮かべた。

「美味いな」

「ほ・・・本当!?」

 俺の言葉にエリーゼは驚きが混じった歓喜の声を上げた。
 その表情があまりにも嬉しそうだったので、もっと見たくて俺はとっさに2つ目のクッキーを手に取った。

 幸せそうな顔で見つめられ、俺は次々と塩・・・クッキーをたいらげていったが、さすがに塩分を摂りすぎた体が警告を出し始めていた。

「ああ、食べてしまうのが勿体無いくらいだ」

 ・・・だから持って帰っても良いだろうか・・・。

 これを今ここで全て食べたら、塩分過多で死んでしまうかもしれない。
 もちろん、エリーゼの手作りクッキーを処分するなんてありえない事だし、これを誰にも譲る気はない。
 一日に摂取可能な塩分量と相談しながら食べ切れば良いだけだ。
 もはや塩とあまり大差ないこのクッキーなら、1年くらい余裕でもつだろう。

 しかし・・・今ここで残してしまったら、エリーゼが食べてしまうかもしれない・・・それは避けなければ・・・だが・・・

 くっ・・・!不本意だが・・・これ以上食べるのは危険だ・・・!

 エリーゼとの結婚を前にして、あの墓石の世話になる訳にはいかない。
 墓石の元でエリーゼが来るのを待っていたら、待ちきれなくて生き返ってしまうかもしれない。
 いや、それよりも結婚せずに死んでしまったら、同じ墓石に入れないではないか・・・!

 塩分の過剰摂取のせいか、思考までおかしくなってきている様な気もするが、とにかく今すぐ現状を打破しなければ・・・

 ・・・エリーゼ・・・すまない・・・。

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