惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「貴方が・・・ルーカス様の婚約者ですって・・・?」

 そう呟くスカーレット嬢のワントーン低くなった口調にゾクッと悪寒がよぎった。
 こちらを睨みつける目力と気迫は、とても自分よりも年下の女の子には思えなかった。
 しかし私もここで引き下がる気は無い。

「ええ、彼から熱烈なアプローチを受けましたの。」

 よく分からないけど、いかにも都会の令嬢っぽい口調も真似してみた。

「エリーゼ・・・!受け入れてくれて嬉しいよ」

 ごめんルーカス・・・まだ受け入れてないんだわ・・・
 あとちょっと黙っててくれないかな・・・。

「・・・ルーカス様が・・・笑っているですって!?」

 私に向けられる幸福に満ちた笑みを、スカーレット譲は驚愕の表情で見つめている。

「ルーカスったら・・・2人で住む家の木材も、2人で入る墓石用の石も勝手に用意しちゃって・・・ほんとせっかちなんだから・・・」

 私は少し照れた様に目を伏せ、スカーレット嬢に追い打ちをかけていく。

「ああ、もう木材の乾燥なんて待たずに、今すぐに俺達の家を建て始めよう!」

 いや、それは待って・・・
 ・・・て、もうほんとにややこしくなるから今は黙っててくれないかなぁ・・・!!

「い・・・一体何をおっしゃってるの・・・!?本当にあのルーカス様なの!?・・・あなた・・・ルーカス様に変な薬でも飲ませたんじゃありませんの!!?」

 うっ・・・そうだよ!変な薬飲んじゃってるわ!!

 ピンポイントで当ててきたその言葉が私の胸に突き刺さった。
 さすがにこの言葉に返す言葉が見つからないまま、たじろぐ私を尻目に、スカーレット嬢はズカズカとルーカスに歩み寄り、私から引き離す様にその腕を掴み引っ張った。

「ルーカス様!目をお覚ましくださいませ!!貴方にはもっと相応しい方がいるはずですわ!!こんな流行遅れのドレスを着てる年増な女なんかよりも・・・!!私だって・・・ずっと・・・」

 なかなか酷い暴言を交えながらも、そう訴えるスカーレット嬢の瞳には涙が浮かんでいる。
 彼女とルーカスがどういう関係なのかは知らないが、彼女がルーカスを好きな事は伝わってくる。
 まさか元カノ出現フラグを回収してしまったの・・・!?

 だとしても、彼女の言う「ずっと」とは、どれだけ長い時の事を言うのだろうか・・・。
 私がルーカスと離れていた長い期間・・・私の知らない彼を、彼女は知っているのだろうか・・・。

 私は胸の中に生まれた嫉妬にも似た黒い感情に締め付けられ、一人取り残された様に、ただその場に佇んでいた。
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