惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 ルーカスは無言でスカーレット嬢の手を乱暴に振りほどき、バランスを崩しよろめいたスカーレット譲は後ろに控えていた従者によって支えられた。
 そんな彼女の姿をルーカスは気にも留めずに、私の肩を再び抱くと、スカーレット嬢に冷たい視線を送ったまま口を開いた。

「スカーレット譲・・・口の利き方に気を付けろ。彼女を侮辱する者は誰であろうと許さない。あと、気安く俺に触れないでもらいたい」

「そんな・・・!酷いですわ!!私達だって婚約者同士だったじゃありませんか!!」

「君の父親が勝手に言い出した事だ。俺は君を婚約者と思った事など一度も無い。」

「・・・!!!」

 ルーカスの言葉にスカーレット嬢はショックを受けたように目を見開き震えている。

 今にも泣きだしそうなその姿は、先程までおびただしい程の気迫に溢れた姿とはかけ離れており、やはり年相応の少女なのだと思った・・・が、再び物凄い剣幕でこちらを睨みつけてきた。

 まるで「お前さえいなければ」という強い執念がビリビリと伝わってくる。

 ・・・もうやだ。本物の悪役令嬢怖い・・・。

 しかし、スカーレット嬢は耐えるようにぐっと唇を噛み締め、その表情は次第に冷静さを取り戻していった。

「・・・ええ・・・分かりましたわ。・・・ところで今日、私のお父様がルーカス様のお屋敷へ伺うとおっしゃってましたが・・・そろそろ到着しているのではありませんこと?」

「・・・ああ、そういえばそんな予定があったか。すっかり忘れていた」

 ・・・え・・・そんな予定あったの?

「あまり待たせたら可哀想ですわ。早くお戻りになられて?その間、そちらの婚約者様は、私が変わりにお相手致しますから」

 ・・・え・・・いやだ、やめて。
 なんかこっちを見てくる目が「どう料理してやろうか」みたいになってるから!

「いや、その必要はない。エリーゼも俺の屋敷へ一緒に行こう。」

「ええ!そうしましょう!!」

 ルーカスの言葉に全力で賛同すると、スカーレット嬢は悔しそうにチッと小さく舌打ちした後、ニコリと笑った。

「あら、それは残念ですわ。せっかく仲良くなりたいと思いましたのに・・・また、近いうちによろしくお願いしますわね」

 そう言い捨てると、スカーレット嬢は一瞬私を鋭く睨みつけ、踵を返して去っていった。

 正直・・・仲良くなりたくないし、二度と会いたくはない・・・。
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