惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「サンドロス卿は時々、自分用にカフスボタンを購入されるのですよ。この店はオーダーメイドで男性用の品も作っていますから・・・。サンドロス卿はいつもエメラルドを使用した物を頼まれるので、よっぽどエメラルドがお好きなのだと思っていましたが・・・どうやら好きなのは宝石の方ではなかったようですね」

 そう言うと、何故か私の顔をジッと見つめてきた。

 ・・・そういえば、休憩した時にくれた飴玉・・・あれもエメラルドに似た緑色をしていたけど・・・。
 ・・・それって・・・つまり・・・そういう事・・・?

「えっと・・・ルーカスは物凄く緑色が好きって事でしょうか・・・?」

「・・・・・・お嬢様、鈍いってよく言われません?」

「え・・・?」

「エリーゼ、待たせたな。行こうか」

 何が?と聞こうとしたところでルーカスが戻ってきて、話をしていた女性従業員は意味深な笑みを浮かべたまま身を引いていった。
 仕方が無いので、本人に直接聞いて確かめる事にした。

「・・・ルーカスって・・・緑色が物凄く好きなの?」

 その問いかけに、ルーカスは一瞬キョトンとした表情を見せたが、すぐに溢れるほど愛しそうな笑みを私に向けた。

「ああ・・・好きだよ・・・物凄く・・・」

 ・・・・・・そうなんだ・・・。
 
 その言葉が何故か私自身に向けられている様な気になって、再び沸騰するほどに急上昇した体温に目が眩み、それと同時になんだか少し泣きたくなった。

 私はずっと、私が1番ルーカスの事を理解し分かっていると思っていた。
 しかし、この首都には私が知らないルーカスがいる。
 ルーカスが村を出て私と再開するまでの10年間、彼はどんな経験をして、何を思いながら過ごしてきたのだろうか・・・。

 この首都で、これから私が知らない彼の事を、知っていくことができるのだろうか・・・。
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