惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「一体何をおっしゃってるの・・・!?本当にあのルーカス様なの!?・・・あなた・・・ルーカス様に変な薬でも飲ませたんじゃありませんの!!?」

 ・・・俺は確かに変な薬は飲んだが、エリーゼに飲まされた訳ではなく、俺が勝手に飲んだだけだ。
 そこを間違えてもらっては困るな。

 恐らくエリーゼも俺が飲んだ薬の事を気にしたのだろうか・・・そのまま黙ってしまった。
 エリーゼが気にする必要はこれっぽっちもないのだが・・・。

 俺がエリーゼに声をかけようとした時、スカーレット嬢に腕を掴まれ引っ張られた。 
 再び苛立つ俺に、目に涙を浮かべたスカーレット嬢が縋り付き、訴えかけてくる。

「ルーカス様!目をお覚ましくださいませ!!貴方にはもっと相応しい方がいるはずですわ!!こんな流行遅れのドレスを着てる年増な女なんかよりも・・・!!・・・」

 そのエリーゼへの侮辱とも言える言葉に、俺の思考は怒りで染まり、その後に続く言葉はもはや俺の耳には聞こえてこなかった。
 俺の腕に触れるその女の手の感触すらおぞましく感じた。

 俺は無言でスカーレット嬢の手を乱暴に振りほどいた。
 そのせいでバランスを崩し、よろめく彼女を気にかけるつもりもない。
 そんな事よりも、俺は気を落として小さくなっているエリーゼの肩を優しく抱き、その原因を作った女に冷たい視線を送った。

「スカーレット譲・・・口の利き方に気を付けろ。彼女を侮辱する者は誰であろうと許さない。あと、気安く俺に触れないでもらいたい」

「そんな・・・!酷いですわ!!私達だって婚約者同士だったじゃありませんか!!」

 せっかくエリーゼから「婚約者」という言葉が出てきて、俺の好きな言葉上位にランクインしてきたのに、その言葉を汚さないでもらいたい。

「君の父親が勝手に言い出した事だ。俺は君を婚約者と思った事など一度も無い。」

「・・・!!!」

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