惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 スカーレット嬢はショックを受けたように目を見開き震え始めた・・・が、それも束の間で、再びエリーゼを睨みつけてきている。
 その態度にさすがの俺も我慢の限界がきていた。

 しかし、スカーレット嬢は耐えるようにぐっと唇を噛み締め、その表情は冷静さを取り戻していった。

「・・・ええ・・・分かりましたわ。・・・ところで今日、私のお父様がルーカス様のお屋敷へ伺うとおっしゃってましたが・・・そろそろ到着しているのではありませんこと?」

「・・・ああ、そういえばそんな予定があったか。すっかり忘れていた」

 どうせ話す内容に予想はついている。
 忘れてはいなかったが、時間の無駄だとは思っていた。

「あまり待たせたら可哀想ですわ。早くお戻りになられて?その間、そちらの婚約者様は私が変わりにお相手致しますから」

 この女のやり口は知っている。
 日頃からお茶会や夜会に気に入らない令嬢達を呼び出し、都合の良い取り巻き達と一緒に陰湿な虐めを行っている。
 時には犯罪組織の人間をお金で雇い、自分に都合の悪い人間を襲わせる事もある。
 そういう所は父親の血筋だろうな・・・。

 そんな女とエリーゼを二人きりになどさせるはずがない。

「いや、その必要はない。エリーゼも俺の屋敷へ一緒に行こう。」

「ええ!そうしましょう!!」

 俺の提案に力強く賛同してくれて、思わずジーンと胸が熱くなった。

 エリーゼ・・・そんなに俺の屋敷に行きたいのか・・・。
 俺の屋敷にはすでにエリーゼの部屋も用意している。
 エリーゼの好みに合わせてコーディネート済みだから、きっと気に入ってくれると思う。

「あら、それは残念ですわ。せっかく仲良くなりたいと思いましたのに・・・また、近いうちによろしくお願いしますわね」

 そう言い捨てると、スカーレット嬢は一瞬エリーゼを鋭く睨みつけ、踵を返して帰って行った。

 あと1秒帰るのが遅かったら俺はあの女の目を二度とエリーゼに向けられぬように潰していたと思う。

 女が去り、エリーゼは近くの椅子によろける様に腰を落とした。

「エリーゼ、大丈夫か?」

「え、ええ・・・ちょっとビックリしただけだから・・・」

 エリーゼの住む村にはあんな高飛車な女はいない。
 可哀想に・・・怖かっただろう・・・。
 だが大丈夫だ。あの女には近いうちに耐え難い不運が訪れるはずだからな。

「少し休むといい。俺はちょっと店主と話があるから・・・すぐ戻る」

 俺はエリーゼにそう言い残し、店主の元へと行った。
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