惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 この店に来た理由は、エリーゼがすぐに着るためのドレスを買う目的もあったが、結婚式用のドレスと、他にも彼女のためにドレスをたくさん買ってあげたいと思っていたからだ。
 俺と結婚するとなると、お茶会や夜会に招待される事も多くなるだろう。
 ドレスだけは、彼女の体で採寸しなければ用意できないからな。
 
「うふふ。可愛らしいお嬢様ですわね。それにとても謙虚で・・・。サンドロス卿が惚れ込むのも分かりますわ」

 さすが、ここの店主は人を見る目があるな。

「ああ、彼女ほど魅力的な女性はいない」

 ぜひエリーゼの魅力を語り合いたい所だが、今はやるべき事を済ませなければいけない。

「それより、例の件は大丈夫か?」

「ええ、エリーゼ嬢の好みもだいたい把握出来ました。ウエディングドレスも彼女の好みに合わせて数着御用意致しますわ」

「ああ、明日の朝までに頼む」

「ふふっ・・・相変わらず無茶をおっしゃいますのね。でもお任せくださいませ。私の持ち得る全てのツテを使ってでも仕上げてみせますわ。その代わり・・・例の専属契約の件も、お願いしますわよ」

 今回、かなり無茶な依頼をしているにも関わらず、嫌な顔ひとつせずに引き受けてくれたのは、この専属契約があっての事だった。
 専属契約後は、俺やエリーゼが今後必要になる衣料品は全てこの店で購入する事になる。
 特に俺の妻になるエリーゼが着るドレスとなると、社交界で注目が集まり、そのドレスを作るこの店にも令嬢達が殺到するだろう。

 俺との交渉に臆することなく、利益を優先して真っ向から対話する店主の事は結構気に入っている。
 今回の件がなかったとしても、この専属契約は悪くないと思っていた。

「ドレスを問題無く仕上げることが出来たら、すぐにでも契約書にサインしよう」

「おほほほ!お任せくださいませ!」

 店主は上機嫌に紙にペンを滑らせている。
 しかし、その手がピタリと止まると、先程までの笑みを控えめに、俺の顔を見て慎重に口を開いた。
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