惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 こんな状態でまともに水が飲めるはずがない・・・。
 とりあえず何か話をしなければ、パンケーキが到着する前にルーカスの甘い言葉で糖分過多になってしまう。

「そ、そういえば、私が刺繍した物は何処で売ってるの?」

 私が刺繍の仕事を依頼されてから5年くらい経つが、それをどんな人達が買ってくれてるのかは気になっていた。
 今までに作った数の合計はもう100枚を超えている。
 それを誰かが使ってくれてると思うと、嬉しいような、少しくすぐったい気持ちになってくる。
 
「ああ・・・。すまない、今ちょうどその店は改装中なんだ。」

 どこかばつが悪そうに言うと、ルーカスも自分の水が入ったグラスを手に取った。

「結婚したら行く機会はあるだろう」

 そう言ってグラスの水を一口飲み、ふうっと息を吐いた。

 結婚したらって・・・ルーカスはやっぱり私と結婚する気なのかしら・・・?

 もし惚れ薬の効果がいつ切れるか分からない場合、私はどうすれば良いのだろう・・・?
 ルーカスは、私が小指を失ってしまった事に責任を感じている。
 優しい彼の事だから、たとえ惚れ薬の効果が消えて、私を好きな気持ちがなくなってしまっても、私が傷付かない様に接してくれるだろう・・・。

 そう考えてしまうと、彼の言葉が果たして本物なのか、疑いながら過ごす事になってしまう。
 そんな日々が本当に幸せと言えるのだろうか・・・?

 ・・・今、考えても結論は出ない。
 とにかくユーリに会わないことには・・・。

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