惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 これは・・・あれじゃないか・・・?
 たまに親しい男女がやっている「あーん」と言いながら食べ物を食べさせるという行為が出来るのではないだろうか・・・?
 時々その行為を見かけるが、なんと品の無い愚かな行為だろうと思っていたが、俺の考えの方が愚かだった様だ・・・。
 俺は目の前に残された1切れのステーキに目を落とし、それをエリーゼに「あーん」してみたい衝動に駆られた。

 これを・・・エリーゼの口に・・・。
 いや・・・この大きさではエリーゼのあの小さい口には入らない・・・もっと切り分けなければ・・・もっと・・・いや・・・もっと小さく・・・。
 ・・・これは小さすぎだろう!!やり直しだ!!

 俺は一切れ残っていたステーキにナイフを入れながら何度も切り分け、そのサイズの微調整を入念にしていく。
 大きすぎてエリーゼの口を汚す訳にはいかない・・・。
 しかし小さすぎたら肉の味を味わう事は出来ない・・・。
 そんな小さい物しか与えないケチな男だと思われてしまうのも嫌だ・・・。

「おい!!ルーカス!!」

 突然聞こえてきたその声に、不快さで俺の血管がピキッと音を立てた。
 その声の主に目を向けると、店のドアの所で漆黒色の髪の毛を乱し、ゼーゼーと肩で息をしながら俺を凝視する人物が立っていた。

「お前なあ、コールだけで帰らすなよ!!どっかの馬が逃げ出したって騒ぎになってたぞ!!」
 
 文句をたれながら歩いてくる男の言葉に、エリーゼも何かに気付いたようにハッとした。

「・・・え!?あ!!そういえば、コールがいない!!」

 エリーゼのその反応で、彼女の存在に気付いた男はビクッと肩を揺らして立ち止まり、姿勢を正して胸に手を当ててエリーゼに頭を下げた。

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