惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「これは・・・エリーゼ嬢、失礼致しました。私はルーカスの補佐をしておりますダンと申します。エリーゼ譲のお話は聞いております。以後お見知り置きを・・・」

「え、えっと、エリーゼと言います。よろしくお願い致します」

 エリーゼも慌てて立ち上がり、ダンに向かってペコリとお辞儀をする。
 ダンはエリーゼに向けていた紳士的な顔を崩し、恨めしそうに俺にその顔を向けた。

「で・・・ルーカス、どういうことなんだ?」

「仕方ないだろ。エリーゼと手を繋いで歩くのに邪魔だったから帰らせた」

「邪魔って・・・お前はコールをもっと丁重に扱え!お前が無茶なスピードで走らせるから、いつも帰ってくると死にそうな顔してんだぞ!?」

「今はお前の方が邪魔だな」

「僕の事ももっと丁重に扱えよぉぉ!!って、それよりもこんなとこで呑気に食事とってる場合・・・じゃ・・・・・・君達・・・食べるの汚くないか・・・?」

「え・・・?うわ、ルーカス何そのお肉!!グチャグチャじゃん!」

 エリーゼは俺の皿の上を見て驚愕の声を上げた。

 俺の皿の上には何度も切り分けた挙句、刻んだ様に細切れにされたステーキはもはやグチャグチャ・・・さらにミディアムレアのレア部分の赤みも合わさって、なんとも言えないグロさを演出している。
 そしてエリーゼのお皿の上も、彼女が頑張って切り分けた時にボロボロと崩れ落ちた部分が溶けたクリームと合わさってふやけ・・・ぐちゃぁっと効果音が聞こえてきそうだ。

 幸いなのが、エリーゼにはダンが言った「君達」の「達」が聞こえていなかったことだ。
 エリーゼに俺が食べ方が汚い奴と思われるのは若干ショックではあるが、彼女がショックを受けるのを防げて良かった・・・。

 しかしダンは俺の皿の上とエリーゼの皿の上を、何かおぞましい物でも見るかの様に見比べている。
 これ以上コイツが余計なことを言わない様に、その口を塞がなければならない。

「ダン、良い所に来たな。せっかくだからお前に「あーん」をしてやろう」

 俺はナイフを握りしめ、その切っ先をダンの口元へ持っていく。

「え・・・?・・・って、それただのナイフじゃん・・・。お前が冗談言うなんて珍しいな・・・ははは・・・」

「俺は冗談は言わない。いつだって本気だ。さあダン、「あーん」だ。貴様に付いている余計な舌を切り取ってやろう」

 俺は立ち上がると、手にしたナイフをダンの口元へと更に近付けていく・・・。

「いや、「あーん」の意味違うだろ・・・ちょ・・・おま・・・っ・・・やめ・・・」

 ダンは恐怖に歪んだ顔で、口を手で覆い隠すように塞ぎながら、ゆっくりと後ずさりしていく。

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