惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 ルーカスにエスコートされながら馬車から降りたわ私は、目の前にそびえ立つあまりにも巨大な御屋敷に「ひええぇ」と小さく悲鳴を上げた。
 どこかで見覚えがあると思ったら、首都に入った時に目に止まった、あの高級ホテルかと思った建物はなんとルーカスの御屋敷だったようだ。

「やあ、ルーカス。君が待ち合わせ時間に遅刻するなんて珍しいじゃないか」

 御屋敷に入った私達を出迎えたのは、肩にかかる深い藍色の髪を後ろで一括りに結んだ、ルーカスに負けずとも劣らない美形の男の人だった。
 正装に身を包み、腰に帯びた剣にはどこかで見た事がある紋章が刻まれている。

 ・・・もしかしてこの人が例の公爵様なのだろうか・・・?
 それにしては、やけに若い気もするけど・・・。
 見た感じ、ルーカスと同じくらい・・・それか少し年上くらいに見えるけど・・・。

「なんでお前がここにいる?客なら大人しく応接室に居ろ」

 ルーカスはいかにも不快なオーラを出しながら、声をかけてきた男の人を睨みつけている。

 ・・・公爵様にそんな態度で大丈夫なのかな・・・?

 あからさまに失礼な態度を取るルーカスに対しても、男の人は上品な物腰で余裕の笑みを浮かべている。

「まあそう言うなよ。君がどこかの令嬢を連れて街を歩いていたって噂になってたからね・・・。君の友人としてぜひご挨拶させてもらわないと・・・」

 そう言うと、男の人は私の姿を確認する様に身を乗り出した。

「今すぐ失せろ」

 その視線から私を隠すように前に出たルーカスは、身の毛がよだつ様な低い声でその男の人を牽制した。
 しかし相手の男の人も笑みを崩さず、「へえ・・・」と感心する様な声を漏らした。

「君がそんな反応をするなんて・・・ますます気になるなぁ」

 まるで挑発するかの様な男の人の態度に、ルーカスは更に眉をひそめると、2人の間にはピリピリとした空気が漂い始めた。
 その一触即発の雰囲気の気まずさに、私は息苦しさを覚えた。
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