惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
 とりあえず、どうにかこの空気を変えようと、私はルーカスの隣に並び、男の人に深々と頭を下げた。

「は、初めまして!エリーゼと申します。お会いできて嬉しいです・・・。公爵殿下・・・?」

 そう告げて頭を上げた私を待っていたのは、目が点になったままパチパチパチと瞬きをしている公爵様の姿だった。

「・・・公爵・・・?」

「ぶふうッ!!!・・・し、失礼・・・ふっふふ・・・!」

 突然ダンさんが吹き出し、口を押さえて肩を震わせ出した。

 ・・・あれ・・・?私何か間違えた・・・?
 公爵様だから殿下で良いんじゃないの・・・?
 ・・・あ・・・まさか・・・。

「あっははは!私をあの悪どいオッサンと間違えないでほしいな!本物の公爵様はあっちの部屋でなんか喚いているよ。ルーカス、早く行って相手してあげなよ」

 高らかに笑い出した男の人の反応を見て、自分の勘違いに気付いた私は恥ずかしさのあまり時間を巻き戻したい衝動に駆られた。
 ルーカスはムスッとした様子でその2人の反応を見ていたが、やがて小さくため息をつき、口を開いた。

「分かっている。お前はさっさと応接室へ戻れ。ダンはエリーゼを俺の執務室へ案内してくれ」

 ルーカスはダンさんにそう指示すると、公爵様が待っているという部屋の方へ歩き出した。

「おっと、その必要は無いよ。エリーゼ嬢、よろしければ私とお話しないかい?」

 その言葉に、ルーカスはピタリと歩みを止めた。

「え・・・?」

 突然話を振られて、今度は私の目が点になった。
 私と話って・・・一体なんの話しをする気なのだろう・・・?

「おい、何を考えている・・・?」

 再びルーカスの低い声と冷たい視線が男の人に向けられる。

「別に、ただエリーゼ嬢は昔のお前の話を聞きたいんじゃないかと思ってね。君の騎士時代の話とか・・・」

「・・・騎士・・・?」

 ルーカスの・・・?騎士時代・・・?

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