惚れ薬を飲んだせっかち男爵はとにかく今すぐ結婚したい
「おい、ジル・・・いい加減にしろよ・・・」

 ジルという人を睨むルーカスの瞳に更に力が込められた。
 その様子にハラハラとしている私とは対照的に、ダンさんは2人のやり取りに慌てることなく、「やれやれ」と呆れた様子で眺めている。

「別に隠す事じゃないだろ?エリーゼ嬢も君の事を知りたいんじゃないかな?」

 男の人に同意を求められる様な視線を送られ、私は思わず頷いてしまった。
 ルーカスが騎士だったなんて初耳の事で、ただ純粋に私の知らないルーカスの事を知りたいと思った。

「ほらね、とにかく君はさっさとあのうるさいオッサンの相手をしておいでよ。ここで話すのは時間の無駄だろ?」

 ジルという人に促されてルーカスは苛立つように舌打ちをした。

「ジル、余計な話はするなよ。エリーゼ、すまないが少しだけ席を外す。すぐに戻ってくる」

「うん・・・」

 ジルという人に対しては警戒心を丸出しにしていたルーカスだったが、私に向けられた表情は、いつもの優しいルーカスの顔に戻っていた。
 それを見て、ようやく私は張り詰めていた空気から解放され、肩の力が抜けた。

「ダン、エリーゼとコイツが2人きりにならないよう、誰か侍女を同室させろ」

 ルーカスはダンさんにそう言い残すと、足早に長い廊下を歩いて奥の部屋へと去って行った。

 ルーカスが居なくなると、ジルという人は私と向かい合わせになるように立ち、自分の胸に手を当て、頭を下げた。

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